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響け! ハートビート
その日、ウサギは胸の奥に大きな期待を抱きながら、銀座の交差点を渡っていた。ふと顔を上げると、目の前に幾何学的な建物がそびえ立っている。それはまるで異世界へと続く扉のように見えた。
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「心の準備は、できてる?」
後ろを歩くカメに問いかけながら、ウサギは靴音を小さく響かせ、むき出しのコンクリートの階段を上っていく。
一歩ずつ進む足取りは、未来へと進むカウントダウンのようだった。
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三階に辿り着き、静かにゲートを越える。すると、目の前には白く眩しい端末の画面が、薄暗い空間に幻想的に並んでいた。
名前を入力し、そっと細い指先を小さな円形のセンサーに添える。その瞬間、微かな振動が指先をくすぐり、ウサギの「心音」が静かに読み取られていった。
データが転送されたスマホの画面を覗き込むと、彼女のハートビートは可視化され、ひとつの形になっていた。
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心音の登録を終え、一歩足を踏み入れると、そこはつかの間の静寂に包まれていた。まるで、これから始まる物語が息を潜め、そっと幕が上がる瞬間を待っているかのように。
そして、YOASOBIの「HEART BEAT」が流れ出すと、そのリズムに呼応するように、光が、音が、振動が目を覚まし、空間全体が息をするように動き始めた。
細やかな光の粒たちが脈を打つように流れ、ふたつに枝分かれしながら、二重らせんの舞を描いて駆け抜けていく。
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足元から響く振動が、波紋のように体の奥へと溶け込んでいく。参加者の心音はそれぞれ異なる色と形をまとい、円を描きながら、彼方へと解き放たれていった。
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ずっと遠くに見ていた
ずっと先の未来は
ずっと近くに来ていた…
「HEART BEAT」の旋律が、若い鼓動とYOASOBIの澄んだ歌声に乗せられ、穏やかな波のように空間を満たしていく。
「これは始まりの合図だ...」
最後の歌詞が消えても、胸の奥ではまだ、自分の鼓動だけがゆっくりと響いていた。
まるで、余韻という名の波が、どこまでも広がっていくみたいに。
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