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旅への準備運動

(簡単な前書き)
先日、僕は友人としまなみ海道を24時間連続で歩いてきた。旅中に面白い出来事や話にたくさん遭遇したので、私事ながらnoteで少しずつ共有していこうと思う。

今回は序章の序章。私が旅のスタート地点である尾道に着くまでの物語だ。


電車は乗り始めは楽しいが、だんだんと飽きてくる。手許には尾道行きの切符。旅のスタート地点はまだまだ遠い。

さて、今回の旅の目的は「24時間歩行」。24時間連続で歩いたら人間はどうなるのかを知るために旅をする。被験者は僕と友人一人。友人というのも、脳筋な企画には大体参加している、毎度お馴染みの超健康優良児バカ一徹である。

しかし、友人は何故か今回の旅にあまり乗り気ではなく、説得(洗脳)するのに時間がかかった。親友の再三の誘いにも応じず、彼は日本のどこかにあると言われる秘境紛いのカラオケ一室に引きこもろうとしたのだ。

仕方ないので、友人たっての願いである「バイキング朝食」をプランに組み込んだら、あっさりと懐柔に成功した。たぶんコイツは食べることと寝ることしか考えていない。

そんなわけで既に暗雲が立ち込めつつある「24時間歩行企画」。彼らが最恐の試練に立ち向かう羽目になるのは、まだ少し先のことだ。


そして話は序盤に戻る。

長い旅路に飽きてきた僕は、それにしても、と思い至る。旅のスタート地点があまりにも遠すぎではないだろうか。

しまなみ海道を選んだのは、島全体を通して散布する絶景を見ながら完歩したいと思ったからだ。だが、自分の住む街からこれほどまでに時間がかかるとは思わなんだ。満員電車は嫌いでないけども、長時間移動はあまり好きではない。

こういうときに本を持ってきていれば飽きることもなかっただろうが、24時間歩行のための荷物は出来るだけ軽くしたいと思って置いてきてしまった。携帯を触ろうにも、月0.9GBの契約が心もとない。そして車窓は驚くほどにつまらない町並み。

旅最初にして最大の関門が迫っている。「このまま乗り続けて旅にエントリーするか」、それとも「ブッチして帰る」の二択。「ブッチして帰る」の選択肢が生まれるあたり、僕はたぶん結構なカスである。

答えに逡巡していくうちに腹が減ってくる。まだ続く長旅に一休止符を打とうと、僕は一先ず電車から降りることにした。

ー岡山駅構内ー

駅弁を食べようと思ったが意外と高い。どうも稟嬙の傾向がある僕は、無駄に高い出費を嫌ってコンビニのパンを購入した。総表示カロリーは200円で約800kcal。下手な弁当よりもエネルギーを得られる。

平日の駅構内は電車を待つ乗客がまばらで密が濃くない。人の間隙を狙って簡単な昼食をとる。街の中にあるはずの構内の空気は意外にも清廉で、心地いい風が吹いている。

こういう場所に住んだら楽しいんだろうなあと思う。
普段は駅構内に建てた一軒家を根城にして、気まぐれに通勤客と言葉を交わしたり、去っていく電車を眺めたりする。駅はいつも涼風が吹いていて、色んな臭いが混ざった新鮮な空気を吸い込む。そうしていくうちに、僕本体は人間というよりも景色になり、人々の背景色の1つになれる。きっと多くの人の日常に入り込むことが出来る。

だが、と僕は思い直す。コンビニの単純作業でさえ飽き飽きしている私が、変わらない眺めに満足できるだろうか。電車に乗っているときに感じた強烈な飽食感、あれは変わる風景を前にして一向に変化しない自分の心への安心感と苛立ちではなかったか。

この旅はきっと、僕の諦念への勝負だ。飽きを打破した先に僕の満足感はあるのか分からないが、一片の留まりはこの際捨てておこう。

僕はまた電車に乗ることにした。車掌が笛をならす。早皐月の新風を吸い込んで電車は動き出した。季節は緑溢れ、気がつけばもう夏の予感がする。

尾道まであと1時間近く。僕の旅はまだスタート地点にさえ立っていない。



……その後も、四五回は「めんどいし友達置いて帰ろうかしら」と考えてしまったのはここだけの話だ。



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