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【てのひら編】 あんぱんたち、


閉店まであと十分もない。『あなたのあんぱんなんて知らないわ?』と書かれたポスターと、ショーケースに未だ並んでいるあんぱんを交互に見て、あんぱんたちの未来を想像すると、目の前のあんぱんたちに脚が生えてきた。
ショーケースを出たあんぱんたちは、驚いて引き留める店主を振り返らず、走ることもせずに、都合よく少し開いていたドアから出て行った。
人間は平凡だから、つぶあんとかこしあんとか、そんなことに縛られたりするけれど、笹塚の胡桃あんぱんはものすごく美味しかった。つぶあんだからバランスが良かったんだ。
あの頃よく会ったあの人の苗字はもう思い出せないけれど、並んで食べた胡桃あんぱんの味は忘れていない。
私のそんなセンチメンタルをよそに、あんぱんたちは宵の街へと消えて、あとには店主と私とショーケースのクロックムッシュとマルゲリータだけが残っていた。「行ってしまいましたね」「行ってしまいました」。
クロックムッシュとマルゲリータを買うと、店主が大きなクッキーをおまけでくれた。「なんだか驚かせてしまったので」とはにかむ店主に、私もはにかんでお礼を言う。
それから店を出て、明日の天気について考えた。あんぱんたちがどこへ行っても、明るい旅になれよと思う。






バレンタインにあんぱんです。星が綺麗に見えました。
お久しぶりです。みなさん、いい夜を。

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