「デザインのある暮らし」は、新しい介護のかたち
数年前の話しですが、介護施設のユニフォームに北欧デザインを採用していただきました。日本のメーカーが考え抜いた機能的なエプロンやシャツ、動きやすいジャケット、そこに北欧デザイナーのパターンデザインを使っていただきました。
感動するほどの素晴らしいユニフォームが仕上がり、介護施設だけでなく、普段の暮らしでも使いやすいだろうなと思っていました。
ところが、介護施設の方々からは、こんな美しいデザインのユニフォームは私たちにはそぐわない、という意見があったと聞きました。ユニフォームが美しすぎて、気軽に働けないというのです。汚れてしまってはもったいないというか、なんというか。。。
確かにプロモーション画像も美しすぎて、親近感がわかなかったかもしれません。
もっと、現場の人に寄り添ったデザインができればよかったもしれません。デザインが気に入らないというより、よそいきの服みたいで、着心地がよくなかったのかもしれません。
でも、着てみれば、着心地もよく動きやすく、デザインもいいのできっと気に入ってくれるユニフォームだと思います。美しいデザインのユニフォームを身につけることで、とても幸せな気分になりますし、その気持ちの高まりが大切です。その気持ちの高まりは、誰でも持っていいはずだし、介護現場では特に必要なことなのではないかと思うのです。
それが北欧の「デザインは、みんなのもの」という思想です。
スウェーデンでは、デザインがどのように浸透しているのかを、お伝えしてみたいと思います。
デザインは、みんなのもの
共生社会であり、多様性を受け入れる北欧では、誰もが幸せを感じられる暮らしができるように、身近ないたるところに美しいデザインがあふれています。
北欧には、「デザインは、みんなのもの」という思想があり、日常生活のあらゆる場面に美しく機能的なデザインがあります。
美しいデザインは一部のトレンディな人のためにあるのではなく、
高いお金を出して手に入れるものでもなく、
大人、子ども、高齢者、ハンディのある人、病人など
あらゆる人のためにあり、
すべての人々によりよい生活環境を与えるためのものです。
クオリティ・オブ・ライフな暮らし
スウェーデンはは70年代から高齢者社会を迎え、右上がりの経済社会ではなく、長く続く成熟した社会体制が整いました。
クオリティ・オブ・ライフな暮らしをするにはどうしたらいいのか、物質社会ではなく、本当に充実した生活とは何なのか、自分にとって心地のいい暮らしとは何なのか、誰もが真剣に自分の生き方に向き合いながら、幸せといわれる社会ができあがりました。
北欧社会には、自立をサポートするシステムが整っていて、年齢に関わらず、いくつになっても自分らしく暮らしていけるよう、誰もが自立をした生活を送っています。
基本はユニバーサルデザイン
スウェーデンが福祉大国と言われるゆえんは、高齢者や子ども、援助を必要とする人々が、できるだけ自立して暮らせるように、様々なサポートシステムが整っていることです。日々の暮らしに必要な生活用品は、誰もが使いやすいように機能的で、エレガントなデザインが一般的です。
ユニバーサルデザインという表現は北欧ではほとんど聞きませんが、公共施設や公共の乗り物は、ハンディのある人や高齢者などにも使いやすいユニバーサルデザインが基本となっています。階段には必ずスロープがあり、ベビーカーでも移動ができます。人々の暮らしを高めてくれるデザイン、それが北欧のデザインです。
乙武さんが実感した北欧の共生社会
「五体不満足」がベストセラーとなった乙武洋匡さんが北欧を訪れた感想を次のように語っています。
北欧諸国では特別視されている感覚を抱く場面がなかったんですよね。僕の姿に特に興味を示されることもなく、あくまで「いち日本人観光客」というような扱いなんです。かといって不親切というわけでもなく、サポートをお願いすれば、ごく自然に手伝ってくれる。これが本当の意味での共生社会なんだなと実感しました。
「みんなのためのデザイン」とは、高いお金を払う付加価値としてのデザインではなく、誰でも手に入れられる共有価値としてのデザインです。共生社会において、すべての人が恩恵を請けられるのが、みんなのためのデザインなのです。
幸せの決定権は自分にある北欧の暮らし
スウェーデンの高齢者施設は、明るいインテリアが定番です。
目に映るものが美しいと、それだけで幸せを感じるからです。
もちろんインテリアといった環境だけではなく、自分たちが日々使うものや身につけるものが美しくて機能的なのは、北欧では当然のことです。
なぜなら、美しいデザインは人々を幸せにするからです。
自分たちが幸せを感じるために、日々使うものが美しいことは、贅沢なことではありません。むしろ必要なことです。
自分が幸せを感じることは、誰でもない、自分に決定権があります。
幸せになることを自分で決めていることが、北欧の人が世界一幸せと言われるゆえんです。
北欧の人たちは、他人にも甘いですが、自分にも甘いです。
その甘さも、幸せと言われるゆえんです。
私が北欧で暮らしていちばんよかったことは、
気楽に生きられるようになったことです。
無理はしない、頑張らない、嫌なことがあったら考えを止める、
とにかく楽になることです。
そしてよいデザインに囲まれることに、この上ない幸せを感じています。
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