味を主観と客観からデザインするコーヒーの話
格付けをする番組で「高級ワインを当てる」問題を何度か観たことがあれば、「飲みやすい方」が安いワインで「飲みづらい」方が高級なワインなんだっていうのがなんとなくわかってきますよね?
この時の回答として求められるのは「客観的」な美味しさで、個人の主観による味の評価ではないんですよね。
じゃあなんで「主観的」な美味しさで選んでしまうかといえば「客観的にうまいとはどういうことか」というモノサシがインプットされていないからです。
コーヒーにおけるモノサシと客観性
コーヒーの美味しさを客観的に評価するモノサシとして「カッピング」という技術があります。(コーヒー屋しか読まないようなblogを書いていますのでよろしければご覧ください。)
以下の8つの項目にしたがってスプーンで口腔内に液体を噴霧しながら、1項目8点満点で評価し数値化します。
フレーバー、後味の印象度、酸の質、質感、カップのキレイさ、甘み、ハーモニー、総合評価
好き勝手に8段階で数値化するわけではなく、答えを知っている人と同じレンジの評価ができなければいけない難解な技術です。
私も最初のころ、今評価しているコーヒーの点数は高いけれど、おいしいかどうかよくわらないという視点によく置いてけぼりにされました。
消費者の言葉とモノサシの言葉
さて、上のモノサシにおいて消費者がコーヒーに対して用いる言葉はどれだけ含まれているでしょうか?
コーヒーが消費者に判断される時用いられる言葉は
香り、キレ、コク、苦味
などの言葉です。ブラックコーヒーに甘さの尺度があることさえ不思議に思われるのではないでしょうか?
つまり、客観性の視点を得た販売側の私たちとお客さんの言葉には共通の言葉がないんですね。ゆえに以下のようなやりとりがよく起きます。
お店「このコーヒーはマンゴーのような味で、酸の質が〜」
お客さん「コクがあるやつは・・・(ちょっと何いってるかわからない)」
お店「・・・」
私たちコーヒー屋は客観的に素晴らしい点をどうしてもわかってもらいたくてこのような状態になってしまいます。従来のコーヒーのイメージを覆すような香味のコーヒーをお客さんにもお伝えしたい!うまいこれはやばい!!(語彙)溢れ出るパッションを抑えきれないコーヒー屋はたくさんいます
しかし上記のやりとりは本当に残念な状態です。(私もやりがちですが)
コーヒー豆の味のデザイン
ここで、コーヒー屋がやらなければいけないことは、客観的な美味しさをはかる言葉を変換し消費者に理解しうる味をデザイン(設計)することです。
先週のマツコの知らない世界ご覧になったでしょうか?
福岡の豆香洞の後藤さんが出演なさった回です。後藤さんはコーヒー豆を焙煎する世界大会で優勝された大変優れた方です(人柄もめちゃくちゃいい)。
コーヒーは焙煎(豆を火にかける)時間で刻一刻と味のバランスが変わって行きます。そしてまた「どう熱量をかけたか」でも味わいが変わってきます。
(温度帯によって化学反応が起き、精製された物質がまた連鎖して化学反応を起こします=成分の消失と生産の連続です)
後藤さんはいくつかの項目を最大化する技術をもっていますが、あえてそれをやらず、バランスを整え、消費者がどう感じるかそして、いかにデイリーに飲んでいけるかを設計して焙煎をされています。これこそが主観に訴えかける味の設計だと思います。
後藤さんのお話にこんな話がありました。後藤さんが「客観的」に質のいいコロンビアの豆を入手しブレンドの豆をそれと入れ替えた時の話です。
「コーヒーの味が変わったお前の淹れ方が悪いんじゃないか?」と主人に怒られた。余計なことをしないでくれ
と消費者に怒られたそうです。デイリーをデザインする難しさを物語るお話ですね。
結局「味」は難しい
高い技術を持っている方でもこんなお話がでてくるくらい味の設計はとても難しいものです。もちろん、すべてをお客さんの好きな味、理解しやすい味に設計する必要はないと思います。
じゃあ、客観的な美味しさをどう消費者に伝え、表現したらいいのか?
それこそが、個々人でやっているコーヒー屋の腕の見せ所ではないでしょうか?
売り上げのベースとして、消費者にわかりやすい、伝えやすい主観によりそうコーヒーの味のデザインと、ネクストステップとして客観性を意識してもらえるコーヒーのデザイン。
コレを機に別の職種の方もちょっと考えてみたら面白いかもしれません!