「産地や歴史、ものづくりの背景も含めて届けたい」鍋島虎仙窯と共作したSWAYオリジナル湯呑みができるまで
こんにちはフォトグラファーの三浦えりです。
「SWAY 渋谷松濤」では、ドリンクメニューのお茶をSWAYと鍋島虎仙窯によるオリジナルの湯呑みで提供予定です。
そこで、SWAYmagazineの連載ではSWAYブランドマネージャーの梯航生さんとともに鍋島虎仙窯の番頭兼絵師の川副隆彦さんから湯呑みができるまでの背景やストーリーを伺います。
今回は江戸時代から続く鍋島焼の自社ブランド「鍋島虎仙窯」の取り組みや、川副さんの文化の継承に対する熱意、湯呑みの制作話をお届けしていきます。
江戸時代から続く鍋島焼の技術を継承する川副さんの鍋島焼と産地への思い
– 川副さんと鍋島虎仙窯について、またSWAYとの出会いをお聞かせください。
川副:鍋島焼には色鍋島・藍鍋島・鍋島青磁の3種類の特徴を持つ様式があり、鍋島虎仙窯の焼き物は、江戸時代から大山内山で採取される国内唯一の希少な天然原料で作られる青磁が8割を占めています。基本的には製造から販売まで一貫して自社で行っています。
僕自身は佐賀県伊万里市にある鍋島虎仙窯の川副家に生まれ、学生時代は焼き物にも携わることもなく、ずっと野球ばかりをしていました。ただ、僕の生まれた地域は同級生たちがみなさん農業や建設会社、窯元などの跡取りばかりで、就職するという選択肢がほぼなく、家を継ぐことが当たり前の環境で育ち、僕も必然の流れで鍋島虎仙窯に入社。今は鍋島虎仙窯のブランディング、経営、経理など会社経営のすべてを任されています。
梯:SWAYとの出会いは、SWAY代表の藤巻が関わるビジネスカンファレンスで川副さんが登壇していたことがきっかけです。ビジネスパーソンばかりのなかに江戸時代から続く伝統工芸品に携わる川副さんがいらっしゃり、登壇して窯元のことを紹介したり、他の方たちから学びを還元する様子を藤巻から伺い感銘を受けました。
川副:鍋島虎仙窯は2016年に「鍋島焼文化の確立」をビジョンに掲げ、鍋島焼の改革と成熟、そして進化させていく取り組みをしています。いままでは技術を高めて公募展や作品展に出品をして評価を高めて作品の単価を上げ、少量生産、高価格帯の長期納品で価値を高めていくことが一般的でした。
もちろんそれでも良かったのですが、一般消費者向けの焼き物が市場に回らないと産業や産地の衰退に繋がると感じ、経済的にも成長しながら産地が元気になり、雇用が生まれ自治体が活性化していくことをビジョンに掲げました。
ビジネスカンファレンスに登壇するのも上場したり資金調達したいわけではなく、僕たちのものづくりの背景を知っていただくためです。日本国内の経営層の方たちは僕たち一次産業の農家やものづくり産業と距離がまだまだあります。作る側も売る側もお互いに寄り添いながら産業を成長させることで、「いいもの」を届けることがことができると考えています。今の時代、作る側の主観的な意志だけでは消費者の手に届きにくいと思うんです。
– 時代の変化もあるのでしょうか?
川副:ありますよね。リーダー層も昭和から令和の時代で大きく変わりましたし、ものづくりや産地においても意志を持ちながらも柔軟に対応するスタンスが重要になってくると感じています。
梯:川副さんのこういった複眼的な思考はとても良いですよね。
川副:ものづくりにだけ集中して本気でいいものを作ろうとする職人がいた方がいいと思いますよ。僕のような作り手も売り手もどちらも柔軟に取り組む人間がいるのは、やはり経済が不安定で産地全体で盛り上がりに欠けていることが理由で、すべての人が僕のような取り組みをすればいいとは考えていません。
経済が安定し、職人が資金面で安定していいものをつくることができて、それを取りまとめて販売をする循環が整うことが目指すべき産地のあり方だと思っています。
本来であれば僕もものづくりを追求して、いいものだけを制作して評価されるのが理想です。でも、産業全体を変革しながら、ものづくりだけに集中できる人材が誕生しやすい環境をつくることが、いま僕が取り組んでいることですね。
SWAYの空間でシーシャとともに楽しめる湯呑みが完成
– SWAYはどういったきっかけで川副さんに湯呑み制作のご依頼をしたのでしょうか?
梯:SWAYで提供しているのは「FETC」というシングルオリジンにこだわりを持つセレクトブランドのお茶で、FETCのメンバーから研修を受けたSWAYのスタッフがお茶を淹れています。お客さんにとても好評なのですが、これまではコーヒーカップで提供していました。せっかく美味しいお茶を急須で淹れて提供できるのであれば、湯呑みで飲んでいただきたいと思い湯呑みを探しましたが、SWAYの空間に合うものが見つからず、それであればSWAYで作ろうと思い立ちました。
▼FETCについて
また、川副さんの鍋島虎仙窯への取り組みをとても興味深く感じたこともご依頼した理由の一つです。ものづくりに対する熱意や大切にしている思想を持つ方と一緒に湯呑みを制作できることはSWAYとしても嬉しいことです。
– 湯呑みの色合いの濃淡は調整ができるんですか?SWAYの空間ととても調和が取れていて落ち着く色ですよね。
川副:鍋島焼は基本的には淡い青色ですが、山から採掘する天然石が原料なので、採掘する山の層によって微妙に色が違いますし、季節により少しだけ変化があります。自分たちで調合して色を作るというより、僕たちの産地である大山内山の国内で唯一採掘できる資源だけで色を出しています。それが強みでもありますし、一方でビジネスとして大量生産することはとても難しいです。
梯:今回の湯呑みはなるべく薄く軽やかな色合いにしたく、焼き物自体の下地の白がうっすら見えるくらい、釉薬の塗りが薄くなるように川副さんにお願いしました。
湯呑みの形にもこだわりがあります。SWAYの店舗の空間は直線が多いので、湯呑みの形も直線を意識して、厚さはできるだけ薄くしてすっきりとしたデザインにしています。ただ、湯呑み全体が薄いとお茶を淹れたときに熱くて持てないので、湯呑みの下の部分は内側に厚みを持たせ手に取りやすいようにしました。また、実際に口元に近づけたときのお茶の香りについてはFETCのメンバーに意見をいただきました。
受け皿があることでおもてなし感もありますよね。デザインにもこだわりがあり、円形のサイズは湯呑みの収まりがバランス良くなるように設計しました。また、席から湯呑みを眺めていると、浮いているようにも見えて面白いんですよ。
川副:ものづくりに携わっていると、いまの時代は開発から消費者の手に届くまでのスピードがとても速く感じます。僕たち窯元は速さでは競えるとは考えていません。僕はものづくりや産地、歴史の背景も含めて消費者に丁寧に届けていきたいという思いがビジネスをする根底にあります。SWAYも同じようにサービスにこだわりを持ち、丁寧に伝える点が鍋島虎仙窯としても一緒にものづくりをしたいと思える理由でもあります。
梯:SWAYもブランドの背景を伝えることは常に意識をしているので、鍋島虎仙窯と川副さんの取り組みに共感します。
川副:ものづくりの背景って変わらないじゃないですか。大量生産や機能性重視、インフルエンサーが使っている商品は速いスピードでどんどん変わり消費されていく。でも、歴史・文化的背景や職人のこだわりや姿勢が落とし込まれたプロダクトは時間が経っても変化しない不変的なものだと信じています。僕たちはそういった部分を大切にして長続きできるものづくりをしたいですよね。
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私自身、長い歴史を受け継ぐ伝統工芸の職人の方はどこか遠い歴史のなかにいるようでとても距離を感じてしまうイメージがありました。
しかし、川副さんの時代に寄り添いながら、鍋島焼を残していこうと取り組む姿勢はとても新鮮で、伝統工芸品のこの先の未来を目にできた気がします。ぜひ、SWAYを訪れてお茶をオーダーして、湯呑みを手にしてみてください。
次回はSWAYと川副さんが共作した湯呑みを通して味わえる体験価値について深堀りをしていきます。
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