Re: 【短編小説】FUCK袋どうでしょう
煙草を吸い終えて座敷に戻ると、同僚(ぴえんして転勤を断れる方の性別)の後ろに詰まれた福袋に目がいった。
「なぁ、その福袋は何買ったの」
今でも給料日前になると学生時代の写真を使って下着を売れる方の性別をした同僚は、袋をバシバシと叩きながら笑った。
「これは24年度新卒の詰め合わせ、こっちは外資系金融勤め、こっちは」
「待った待った、24年度新卒の詰め合わせってまだ内定出てない奴らだろ」
思わず真顔になって訊いてまった。
同僚(穴がひとつ多い故に遊び金に困らないはずが何故か金欠になりがちな方の性別)は、こっちが驚くほどのドヤ顔になって
「うん、まぁ能力が高いのにってパターンが稀にあるからね。なんか20人分の金額で30人分の即戦力が入ってるんだってさ」
と言う。
仮にお前が当たりを引いたところで凄いのは中身であり、お前自身の能力にバフがかかる訳でも何でもないぞ……と思うが、下駄を履いてる自覚が無いどころかガラスの天井なるものを幻視してしまう方の性別をした同僚はしたり顔である。
訊いて欲しそうなので訊いてやるが、ムカつきは拭えない。
「じゃあそっちの外資系金融勤めってのは」
「まだ独身の男詰め合わせ。こっちは5人分の金額で8、9人分。当たりだと12人分くらいの価値があるって」
「でも言うたって売れ残りだろ、危険牌ばっかじゃねぇの」
いよいよ面倒になってきたが、結婚詐欺をしようが赤子を殺そうが懲役が割り引きになる方の性別をした同僚はチッチと舌を鳴らして人差し指を振った。
「既婚とカチ合ってハードラックとダンスるよりマシじゃん」
「そうだけどさぁ」
「あんたも買えば、まだ色々残ってたよ」
最終的には働かなくたって助けてもらえる方の性別をした同僚が流し目でおれに言う。
何様だ?
どこから目線でものを言ってるんだ?
「色々って」
「女子学生詰め合わせとか人妻詰め合わせとか」
バカにしてやがる。
1秒ごとに価値が落ちる方の性別が何を偉そうに。
「やめろよ、そんな危ないもん買わせようとするんじゃない」
「大手商社総合職とか受付詰め合わせは少し高かったけど」
「そっちなら買うとか思ったのか」
「買わないの」
あんたになら買えるんじゃない?
とでも言いたそうな同僚(他人の煙草休憩にはうるさい癖に自身の化粧直しはそれより時間とっちゃうけど棚上げできる方の性別)はニヤリと笑った。
「どうしても売れ残りってイメージが強くてなぁ」
お茶を濁したい、と言うかそろそろこの会話を終わりたい。
「いいの入ってるかもよ」
何故なら、おれはこの女の中身は心底嫌いだが
「外れの処分どうするんだよ」
この女の容器──肉体は好きだからだ。
「フリマに出す」
ヤりたい。
「外れを」
抱きたい。
「案外と売れるよ」
蹂躙きたい。
「経験者は語るってか」
その貌とひとつ多い穴で全てを解決してきたであろう性別をした同僚。
お前の社員証にミートソースをぶち撒けたいと思ってるよ。わかるか?
「中身の見えない福袋より何か分かってる売れ残りを買う人多いからさ」
分からないだろうな。
「それならいまいちでも怒る気になんないってか」
お前はそれを首から下げて
「で、どうすんのよ」
ミートソースで汚れた社員証でまんこを隠しながら
「なに買わせようとしてんだよ」
ダブルピースで写真を撮られる。
おれはそれを、コイツに惚れてるクソ上司に10万円で売りつけるんだ。
「アンタが買うと紹介料でひとつ半額で買えるの」
「凄いね、そんで半額の何買うの」
おれは自分の下半身にゆっくりと血が集まり始めているのを感じた。
「んー、まだ決めてないけどタレント崩れの詰め合わせとか」
中途半端なタレント崩れに抱かれる同僚。
「あからさまな転売目的で草も生えないわそれ」
どうせ避妊はしないんだろ?
「気が向いたら声かけてよ」
ならおれもゴムは必要ないよな。
「おう」
「グラス空いてるよ」
「あー、じゃあコークハイ頼むわ、ついでに串盛りお願い」
「鳥の売れ残り」
「そういう事を言うんじゃない」
「わはは。あ、煙草一本ちょーだい」
「ほらよ」
「ラス一じゃん」
「いいよ、吸えよ」
「うん、ありがと」
「買うかな、福袋」
「お、どれ買うの」
「たまに煙草を吸う女の詰め合わせ」
「あーししか入ってないじゃんそれ」
「いいから吸えよ、ほらライター」
「その話を詳しく」
「並ぶぞ、喫煙室」
「戻ったら詳しく」
「行けようるせぇなぁ」
「約束だぞ」
「その袋棄てんぞ」
「構わん、約束だぞ」
その時だった。
「見つけたぞ!」
「チンポ野郎だ!」
店内に雪崩れ込んできた野武士だか素浪人だか分からぬ風態の怪しい男たちは、野太い太刀を振り回しながらおれを切り刻んだのである!!
「成敗致す!」
「天誅にござる!」
性欲に負けたミソジニストにはお似合いの結末でござる!ペッ!と唾を吐かれたおれは血の海でそっと呟いた。
なにを?
それは誰にも聞き取れないのでした。
やきそば、やきそば。