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【短編小説】誰も知らない

 スマホを見ると留守電の通知があった。
 今時珍しい。ほとんどの用事はラインで済ませられる。メールを使う事もあまり無くなった。それなのに音声通話の方が良いと言う人間もいるし、現にこうやって電話をした上で留守録まで使う人間がいる。
 急用か。
 見覚えの無い番号だったが、履歴には名前の表示がある。その名前にも見覚えが無い。いつ登録したものか、記憶を遡っても何も出てこない。
 ひとまず留守電を再生する。
「2022年、8月、XX日、午後、9時、45分、です」
 何年も前からこのゆっくりとした音声案内には苛立ちが募る。もう少し早くできないものか。スキップ機能を付けて欲しい。何時何分かは着信履歴にあるのだから必要ないのだ。舌打ちをこらえながら待っていると、やがて男の声で「もしもし」と言うのが聞こえた。
「もしもし、いや急にすまん。俺だよ、俺。覚えてるかな」

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