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【短編小説】エリザベス女王杯のお前へ
引き出物のカタログを眺めていると革の小銭入れに目が留まった。
共に生きるとか常に一緒にいるとか考えた訳では無い。何かの時に思い出すのなら形見とは言わないまでもこれを選んで持つ意味はあるかも知れない。
そう思って葉書に小銭入れの商品番号を記入した。
葬式の晩に一度だけ出て以降、彼が夢に出てくる事は無かった。墓がどこにあるのかも知らない。
馬鹿な同級生は「月命日には花を」などと言っていたがその軽薄さに反吐が出る思いをした。
酷く感傷的になるほど仲が良かった訳でもない。だからと言って素気なくふるまう程に距離感が遠い訳でもなかった。
欲を言えばもっと馬鹿馬鹿しい時間を過ごしておけば良かったと思う。
しかし肉体的にも精神的にもあまりタフで無かったから難しかったかも知れない。それでも些細な事で良いから何かをしておくべきだったなと思う。
そうやって積み重ねた日々の先でもう夢にも出なくなって久しくなったその瞬間に、ようやく彼は俺の中から成仏できたと言える。そんな気がする。
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