【超短編小説】拝啓、坂の上からの呪詛より抜粋〜shut say 温野明日〜
寝相の悪い女にセミダブルサイズのベッドを追い出されてから千羽鶴を折り続けて三年と五ヶ月が経った。
震災だとか戦争だとかで無力感に襲われながらも何かしなきゃと言う公義心に駆られるマヌケを黙らせておくには千羽鶴だとかってのは丁度良い手慰みだ。
もう目を瞑っていても折れる。
だが相変わらず俺の眠りは浅く俺とその女の快感連絡船は途絶えたままになっている。
「ごらんあれが潮吹き岬」
月の見える丘。
茂みの向こう。
またはモザイクの果て。
引き摺る足で進む千歩。
削げ落ち飛び出る白い物。
二本の足を満足に扱えない奴が一体どこへ行こうと言うんだ?
「ここでは無いどこかへ」
いつもそればかりだ。
お前は狂えない。
何故ならお前は自我も自意識も手放せないし狂いたいと思ってすらいない。
それは怠惰だ。
自身からの逃亡だ。
だがお前には自身から逃げられる足が無い。
残念だったな。
さぁ、今日も鶴を折るんだ。その血で書くんだ。
笑えよ。
手慰みだ。
白い物が露出するまで続けてみろよ。
行き止まりも何もないさ。
そうやって積み重ねた宛名の無い手紙を燃やした時にお前はどこかに行ける可能性がある。
ほんのちょっぴりな。
お前はお前との闘争に慣れている。
お前はお前のコントロールの仕方を分かっている。
お前は安全装置の外し方を知っている。
だから駄目なんだ。
残念だったな。
お前は谷底のスカイスクレイパーでケツのデカい上司をファックできなかっただろ?
それがお前の限界なんだよ。
スローモーな欲望。
頑丈な首輪を自分自身に付けてるからな。
お前を飼い慣らしているのはお前自身だ。
お前の影が伸びてるのが見える。
お前はお前のハーネスを手放せない。
それは酒を飲もうが煙を呑もうが変わらない。
お前は愧とビビりの塊だ。
もういい加減に飽きたろう?
イライラするだろ。
さぁ起承転結で行こう。
お前の原稿用紙には日本国憲法が適用されないんだ。
仕事は燃やせ。
上司は犯せ。
野郎は殺せ。
丁寧さも分かりやすさもいらねぇ。
好きに生きろ。
まぁ、そこまでやってもお前はどこにも行けないがな。
ほら、足跡がついてるだろ。
笑えよ。