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【超短編小説】ホーム・ホーマー・ホームレスbefore the Big Issue
坊主が鳴らす鐘が響く。
雑踏に乱反射するヒステリックな金属女はまるで乞食が癇癪を起こして打ち鳴らす歪んだ鍋と曲がった匙のようだった。
その鐘は銭を乞うのか、飯を乞うのか。自己の存続か自身が信じる教えの存続か、それとも世界か。
自彼の境界線が曖昧になってきたところで、突き当たりの階段を上がった。
地下鉄は胎内巡りたり得るのか。
幼い頃だ。
地下鉄を降りると、母親に手を引かれて階段を上がった。
灰色と言うにはあまりにも薄暗い色をした階段の踊り場に、階段や影と一体化しつつある色をした、饐えた臭いを放つ男が座り込んでいた。
長く垂らした重い灰銀色の髪の隙間から鋭く光る目がこちらを見ていたが、幼かったのでその目が意味するところを知ることはなかった。
今でも正確にその意味を読み取ることは叶わないだろう。
そうであるならば、成長や人生とは一体なんなのか。
とにかく、背景との境界線が曖昧な存在を見て
「臭い」
どのタイミングで言ったのか定かでは無いが、そう呟くと母親は強く手を引いて黙らせた。
そして階段を登りきったところで
「乞食がいるから」
と言った。
こじき。
強烈な臭いを発する、鈍暗色をした男がその様な可愛らしい響きのある存在であること、大人にとってはありふれたその迷惑な存在そのものが幼い自分にとって新鮮であったことに少なからず感動して、歩道から身を乗り出して階段を覗き
「こじき!」
と叫んだ。
男は、微動だにしなかった。
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