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Re: 【超超短編小説】ICカード
帰る時ですら忙しない人たちでごった返す駅で、ピンポーンと間抜けな音を立てた自動改札が柔らかい扉を閉めた。
「あぁ、チャージを忘れた」
彼女がそう言ったのをおれは聞いた。そしてその先の言葉は無かった。
それはこれ以上おれと一緒にいたくないと言うことだろうか。
そうならばおれは先に帰るべきだ。
待っててとも、先に行ってとも言わずに券売機に向かう彼女の背中を見送ってから、おれは改札を通り抜けた。
改札機はおれに何も言わない。
帰る人たちで散らかったホームに電車は予定より二分遅れでやってきた。
まだ彼女は来ない。
つまり、そう言う事だろう。
電車から降りてくる人びとはこれからどこに行くんだろう?
ホームベルが鳴り終わり、ドアが閉まる。
世界はゆっくりと平行に動いていく。
おれは二分遅れで走る電車から見える街の景色を、もうここには戻らないと言う意味と受け取って目を閉じた。
彼女は電車に乗ったのだろうか。
二分遅れの電車の次に走る電車。それとも駅で俺を探したりするのだろうか。
いや、それは単なる願いだ。
さようなら。
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