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【超超短編小説】ファッションモンスター

「勇者よ、その着こなしでは私を倒すことはできない」
 ファッションモンスターは粋にキめたボルサリーノを摘んで傾げた。そのツバが織りなす角度ですら圧倒的に美しい。
「前回の吊るし売りスーツは酷かったな、私も舐められたものだ」
「くっ……今回はきちんと仕立てたのに、何故だ!」
「まずはネクタイの色だな」
「なんだと?」
「勇者よ、その仕立てを作る為に私をどれだけ待たせた?」
「あ……」
「そう、キサマはもはやフレッシュマンでは無い。いつまでも若々しくピンク色のネクタイなど絞めるんじゃない」
 ファッションモンスターが一歩踏み出す。
 ピカピカに磨き上げられた靴は今にも顔が写りそうだった。
「それに」
 ファッションモンスターが踏み出した足、そのズボンは裾が真っ直ぐ伸びていた。まるで重量に従う重みを感じる。
「貴様はベルトの色と靴の色も揃っていないどころか」
 まさか、裾に錘を入れているのか……?
「パンツと靴下の色も違うだろう」
 俺に向けて真っ直ぐ伸ばした指の爪は美しく磨き上げられていた。
 持ち上がったジャケットの下から、一直線になったシャツのボタンラインとベルトのバックル、そしてスラックスのチャックが見事な中心線を構成していた。
「うおおっ」
 俺が投げつけた領収書はファッションモンスターのカフスボタンに弾かれた。
 更に何か投げようとポケットに入れた両手を、ファッションモンスターのタイピンとマネークリップが貫く。
「膝を付かなかった事は認めてやろう、折角の仕立てが汚れてしまうからな」
 その時、魔術師の杖から巨大な火の玉が飛んだ。
 ファッションモンスターは炎に包まれ、呆気なく膝を付いて斃れた。
「おい、何してんだ。行くぞ」
 俺は買い揃えたスーツを脱いで鋼の鎧を着込んだ。次の街で売れるだろうか。装備を売り払われてほぼ全裸の魔術師を後ろから眺めながら、道中でできるだけモンスターを倒して稼いでおこうと思った。

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