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【短編小説】Bonen-改@宇多川動物園A
恋人はもちろん、友だちのひとりもいない孤独で惨めな不細工の為の物語があるとするだろう。
そうしたら、原稿用紙とペンを用意して、バーっと書くのさ。
そこに出たのが、波打ち際ブンガクだよ。
だから例えば、それはこうやって始まる。
「こんなパーティー、抜けだして寿司でも食べに行こうか」
カラ出張の服部の提案を断る。
「その金もカラ出張で着服したやつですよね」
カラ出張が苦笑いする。
繰り返したカラ出張不倫で居場所を無くした服部が持つこの厚いツラの皮は見習うべきかも知らない。
クソよりも顧みられない番組の収録を終えて居室に戻り、ようやく仕事から解放されたなと言う気分になれたと思った。
しかし会議室でささやかな忘年会をやるとチーフが言っていた。
正直、気乗りしない。
暖かい飯も無ければ煙草だって吸えないし単なる低予算の立食パーティーだ。
さっさと帰ってラーメンでも食べていたいのが本音だ。
しかし会社と言う組織で生きていくのならそれなりの社会性を発揮しなければならない。
気乗りしないまま会議室に入る。
すでにアフロ斎藤とプッツン松井が所在無さげに立っていた。
「お疲れ様です」
それぞれの眉間辺りに視線を送ってから机の上を見る。どこで発生したのか知れない惣菜、お菓子、ソフトドリンクと缶ビール。
見捨てられた番組にはお似合いだ。
別にチーフが吝嗇だとは思わないが、ピザなりフライドチキンなりがあればまた気分も違っただろうにと思う。
しかし湯水の如く暴言を吐き散らかす昭和遺産の様なパワハラ爺のチーフが珍しく忘年会なんてのをやると言うから驚きだ。
参加率100%の飲み会に期待するのは、そんなチーフの引退発言だけれど定年はまだ先だ。
死ぬ予定もまだ見えない。
ところでプッツン松井は、今朝方の番組打ち合わせで急に怒鳴ったり土下座したりと言う大立ち回りなんて無かったかの様にニコニコと笑っていたが、アフロ斎藤はそわそわと缶ビールを見ている。
「みんなまだ来ないっすね」
アフロは気のない返事をした。
ビールから目を離さずに返事するあたりはさすがだ、便所で隠れて飲んでいるだけある。
会議室の空気が気だるくなろうかと思った時だった。
「それはどうかな!」
堀辺(俺は極真やってるからさ)タロウが入ってきた。
こいつは普段からオラつき散らかしつつ、やった事もねぇ編集の心構えだとかを説いては悦に浸るタイプの野郎で全ての編集マンから嫌われているが、本人はそれを孤高とでも捉えている節がある。
控えめに言っても階段から落ちて両手足を複雑骨折して欲しい。
ついでに言うと極真オラつき太郎は前回のロケでマイクの手配を忘れた時に「チーフに言わないで」と何故か編集マンに泣きついてきた事なんかすっかり忘れて、いつものオラつきを存分に発揮している。
続いてカラ出張の服部、唐揚げは堅あげ原理主義の望月、通知三角マークの加藤、レーズン乳首の福島キャスターが会議室に集まってきた。
どうでもいいが極真オラつき太郎はレーズン福島が好きらしい。
「あとはチーフだけっすね」
誰となく言うが、アフロ斎藤は缶ビールから視線を外そうともせずに
「先に始めちゃおうか」
と言って手を伸ばした。
極真空手オラつき堀辺太郎は「ほら、斎藤さんに渡すんだよ」などと若手に対するオラつきを存分に発揮しつつアフロ斎藤に追従しながら缶ビールを持ったが、まだビビりがあるのかプルタブを引くに至らない。
続
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