Re: 【超短編小説】職場に於けるションベン社員の便器について③
俺たちのションベンが終わる。
俺たちの安らぎが終わる。
人類が発生して以来、俺たちはションベンをし続けてきた。
上下水道システムが完成してからもションベンをしてきたし、これからもションベンをしていく。
ションベンは永遠だ。
だがションベンの方法は変わらない。
これまでも変わらなかったし、これからも変わることがないだろう。座りションベンなんてのは変わったうちに入らない。
俺たちの陰茎が変化することは無い。
俺たちのションベンは変わらない。尿が固形化して取り出せたりする事もない。
結局はいつまで経っても便所は汚いままだ。
綺麗に使うには便器の方が変わらなければならない。
便所。
俺たちは長年そうしてきた様に、むっつりと黙って便所に入ってきて小便器に近づき、チャックを下げて取り出したものから放尿せねばならない。
この時、小便器から遠すぎるからションベンが垂れてびしゃびしゃと汚れる。
跳ね返り汚れだとか、そもそもびしゃびしゃで汚い便器だとかにズボンを触れさせたく無いから遠くなる。
距離感を解決すれば済むのか?
最初は小便器にシャッターがしてあり、正しい距離の位置に足を置かないと開かないと言うのはどうか。
そうすれば遠すぎる事もない。
近い分には問題が無い。稀に便器に挿入しているのかと見紛うほどに近いのがいるが、それは汚さないから問題が無い。
続いて跳ね返り問題だ。
排尿の尿圧に個人差がある。便器をカチ割るのかと言うくらい強い人間もいるし、結石でも詰まっているのかと思うくらいポタポタと垂らしているのもいる。
そうなると便器の内側に跳ね返りを防ぐ仕組みが必要になる。
シャッターを開けたのだからシャッターを下ろす訳にはいかない。
凄い吸引力の装置を置いても良いが、ゴミを捨てる不届き者がいる事を考えると止めるほかない。
某テーマパークにあるような水のカーテンが理想的だと言える。
水の薄いカーテンに向けて排尿をする。
小便器の上部に設置されたセンサーで陰茎と尿を感知して、その部分だけカーテンに隙間ができる。
跳ね返りはカーテン部分が防いでくれるので汚れる事は無い。
もしかしたら薄い水のカーテンに陰茎を挿入すると陰茎も指も洗えて清潔なのか?
残るは便器に落ちる陰毛だ。
シャッターも水のカーテンも落ちた陰毛をどうにかしてくれない。
そうなると河や海にションベンをする様に、または山で茂みにするように、自然環境があれば良いのでは無いか?そうすれば陰毛ごとき、取るに足らない問題となる。
つまり、便器の下部に河だとか海だとか茂みや木のウロ的な何かがあり、普段はシャッターで閉じられているが、但し位置に立つと開いて用を足す事ができる。
水の薄いカーテンがあるので跳ね返りも気にせず(まぁ河川や海に放尿するのにそんなものを気にする奴はいないが)に用を足せる。
ションベンが終わった。
熱い迸りが終わり、安らぎが終わりを告げた。
俺は陰茎を振って残った水滴を飛ばす。
新たに入ってきた男がギョッとした顔でびしゃびしゃと濡れた便器の床を見る。
「それ、小磯部長ですよ」
俺はびしゃびしゃと濡れた床を顎で指してから便所を後にした。
別に便所が変わる必要は無い。
鼻くそで封をした退職願をケツから出してスキップしながら廊下を進んだ。
辞めよう、仕事を。