【超超短編小説】鴨沢タダシ

　鴨沢タダシはなんか長い棒を持って走ると、地面に突き立てて高く飛び上がった。
　野暮ったいスクールジャージがばたばたとはためいている。
　ぼくたちの学年は緑色と決まっていて、上の学年が着ている青や下の学年の赤に比べるとダサい事この上無かった。


　校庭の隅でボンヤリと空飛ぶ鴨沢タダシを眺めていると不意に肩を組まれた。
　振り向くと、サッカー部の連中がニヤニヤしながらこちらを見ている。
「財布、汚れてんだろ。掃除してやるよ」
　少し離れた所に立ってこちらを見ている女子たちが手を叩いて笑っている。


　財布の掃除なんて言う古典ギャグが面白いのだろうか。
　腰の部分を折り返したミニスカートから伸びる足とルーズソックスを一瞥して、誰が誰と寝て兄弟姉妹をやっているのかなどと考える。
　あとはどうやってここを誤魔化すか。
　腕力も無ければ逃げ足も遅い。おまけに財布を預けて和ませるほどの中身も無い。


　そうこうしていると、肩を組んできた左側こサッカー部員になんか長い棒が刺さった。
「サッカー部！大丈夫か！」
　鴨沢タダシが走り寄ってきた。
　手にはまた別のなんか長い棒を構えている。
　そのまま右側のサッカー部員になんか長い棒を突き立てると高々と飛び上がって学舎の屋上に消えて行った。


　緑色のダサいスクールジャージをはためかせて消えた鴨沢タダシを見送ってから、なんか長い棒が刺さって死んだサッカー部員たちの腕を肩から外す。
　他のサッカー部員たちも面倒くさそうにしているか、女子とこの後どこに行くかなどと声をかけている。


　なんか長い棒が刺さって死んだサッカー部員を見て欲情したのか、女子たちもまんざらではなさそうだった。
　きっとまた兄弟姉妹を増やしていく。
　学校はあまりにも狭過ぎる。
　それにどうせ、好きな池田さんだってサッカー部員たちになんか長い棒を刺されてしまっていると言う話だ。
　こんなところに希望はない。


　ぼんやりしていると、鴨沢タダシがなんか長い棒を持って校舎から出てきた。
　鴨沢タダシは目の前まで来ると肩を組んで
「これなーんだ？」
　と言って白い結晶が入った袋を見せたとあと、間髪入れずに
「カフェインの結晶」
　と言ってパッケージをジャージのポケットにしまった。

　
　あの時にきちんとしていたら鴨沢タダシはどう飛んでいたのだろうか。