Re: 【超超短編小説】火曜日と木曜日が嫌い①
それは良く晴れた10月のことで、晴れた空は日本中の青を集めたみたいに光っていて、澄んだ、濃い青色をしていた。
でもそれは火曜日で、だからまるで残月の様に穏やかな財満 青太郎の心にシミを作ったし、そのシミはなかなか消えなかった。
青太郎は別に月曜日が嫌いじゃなかった。
日曜日の延長みたいなそれは、意識が曖昧なうちに終わってしまうから、嫌う理由なんてどこにも無い。
だからわざわざ月曜日に人を殺して捕まる人間がいるなんて、青太郎にはとても信じられない事だった。
でも、火曜日は別だ。
明確に1週間は始まってしまっているし、それだと言うのに折り返しの水曜日はまだ来ないし、土曜日は遠く、おまけによく行く銭湯も、修理に預けているバイク屋も休みだ。
だから財満 青太郎は、改札口から出てきた女を、片っ端から殴打する事にした。ぶつかるのではなく、殴る事にしたのだ。
改札から出てきた個別の存在には何の思いもなかったけれど、線対象だとか点対象だとか、とにかく自己認識の反対側にいる方の性別だと判断したら、青太郎は躊躇せずに、思い切り殴った。
殴られる前提で無い存在は、次々と顎を砕かれていった。
それは青太郎の怒りでは無く、哀しみでもない、願いや祈りに似た行為であると、青太郎は考えていた。
だから、その叶えられた祈りとして飛び散る血は美しく、人生の悪徳を詰め込んで、濃密な黒さに裏打ちされた、潤沢な、赤い光だった。
青太郎は、叶えられた祈りの下にある、幾千の涙の側にいる人々を、殴ることはなかった。
でも彼らは、人生の悪徳を詰め込んで、濃密な黒さに裏打ちされた、潤沢な赤い光を流しきった器を、同じ様に踏んだり、時には覆いかぶさったり、したのだった。
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