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Re: 【超短編小説】職場に於けるションベン社員の便器について①
チューチュートレインの一番後ろでしゃがんでるだけの人生でよかったのに、賃労働と資本に従わないことには今日のメシすらままならない。
俺は渋谷の中心にあるオフィスでネットサーフィンをしながら労働生産性を高めていたが、比例するように尿意の昂まりも覚えてしまった。
よし、もうちょい労働生産性を高めよう。
「ちょっとトイレに行ってきます」
と言って手刀を切りながらデスクの間を通り抜けた。
別にそれが「コーヒーを買ってきます」でも良いし「煙草を吸ってきます」と言ったところで別に誰も何か文句を言ったりしないのは分かりきっている。
良心とか罪悪感とか言うのとはまた別の何かがそうさせるだけだ。
とは言えちゃんとトイレにも行くし、コーヒーだって買う。
自販機で買う、あの薄いスポンジみたいなカップに淹れられる酸味の強いコーヒーはあまり好きになれないけれど。
廊下は走るな(それは資本家たちの労働生産性を高めることになる!)と言う張り紙に目を横流し、サボタージュとの境界線を歩くみたいに慎重な足取りになる。
1の労働で10の賃金を得ようと必死になってバランスを取る。足音は疲弊。埃っぽい空気。慣れと諦観は裏切られた青年を形成する。
トイレの入口で上司の小磯とすれ違った。
年齢どころかもはや性別まで曖昧になってきた小男は、ハンカチを忘れたのかズボンで指先を拭っていた。
締まりの無い口元で何かモゴモゴと言っていたが、挨拶でもしてるのだろうか?
小磯なる上司は新しい技術(とは言ってもパソコンを使った作業なんてのはもう四半世紀も前からだ!)を覚えられず、年の功だけで序列が上がり、やる事もなくただただ老いていく。
全く、資本の豚にしても醜いものだ。
ああはなるまいと心に誓う。
そして俺はトイレに入るなり叫ぶハメになる。
「おまけにアイツは陰茎が短いときた!」
ションベンでびしゃびしゃと濡れたタイルの床!!それが小磯のションベンであるかどうかは定かでは無い。
だがそんな事は関係が無いのだ。
仮に俺がこのまま他の便器でションベンをして、用を足し終えた俺がまた誰かと入口ですれ違ったとしよう。
ションベンまみれの床を見たそいつは、短いチンポでションベンを撒き散らしたクソ野郎(ションベンなのに!)を俺だと思うだろう。
単純に俺が綺麗にすれば済む話だ。
しかしそれを拭いたり片付けたりするなんてのは、まさに負け犬の仕草だ。
冗談じゃあない!!
小磯が着ているヨレヨレのネルシャツを足で踏みながら片付けるのであれば構わないが、何だって俺が無関係な他人のションベンを片付けなきゃならないんだ?
仕事でも厭なのに。
クソ、不愉快だ。
舌打ちをしながらびしゃびしゃに汚れた便器から一番遠い壁際の小便器まで進む。
「まぁ、これも問題だよな」
そう、便器が小さいのだ。
間違えて小学生用の小便器でも発注して取り付けちまったのか?と思うほどに小さい。
小磯みたいな小男でなくとも、便器の上部に触れそうになる。
結果として少し屈伸気味に腰を落として用を足すハメになり、足腰の弱い奴は便器から距離を取るから床を汚すのだ。
「馬鹿げている」
俺は亀頭の先から熱く重たい雫が迸るのを感じながら立ち尽くす。
それが、便所だ。
(続
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