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【超短編小説】樹木幽霊

 樹木幽霊、と言うものがある。
 幽霊樹木ではなく樹木幽霊だ。幽霊が現れる樹木ではなく、樹木そのものが幽霊なのだ。
 それは主に公園だとか神社仏閣に現れる事が多い。だから仮に見えていても気付かない、気付かれないケースが殆どだ。
 しかし時折り、カンの良い人間が違和感を持って観察すると昨日まで生えていなかった場所にその樹木幽霊がいたりする。

 幽霊樹木そのものは人間に何もしない。ただそこに生えているだけだ。木の枝も、葉も、根も、何もしない。触れようが叩こうが踏もうが、その樹木幽霊は何もしない。
 だが、その樹木幽霊の虚に、それはある。
 それ、が何を意味するかは分からない。だがその樹木幽霊の虚にある、と言う。

 それは都市伝説のようなものだ。
 根も葉もない出鱈目かも知れない。だが、もしかしたら本当かも知れない。
「金があるんだよ、唸るほどの大金が」
「病気が治った」
「世界の真理に到達できる」

 どうだろう。
 どれも本当だが嘘だ、とも言える。
 願いは叶う。だがそれと引き換えに、大切な何かを失う。
 何を失うか、それを選ぶことはできない。
 何を失うか、それはその虚を覗いたやつ次第だ。

 四肢や内臓、視覚や嗅覚、記憶なんて事もある。頭髪?そうだな、あり得るかも知れない。だがそんなに大した願いじゃないだろ。働け、その方がマシだ。
 両親、ペット、恋人のそれら、またはその生命。家屋や乗り物、商売道具……つまり大事にしているものだ。
 そのどれか、何かと引き換える。
 樹木幽霊はそうやって成長した。
 つまりこれまでに多くの引き換えをやってきたって事だ。

 何で知ってるかって、そりゃあそこを見たからさ。虚だよ、樹木幽霊の。
 何を失ったかって、全部だよ。全部だ。
 元々おれがいた世界を全て失ったのさ、おれが裏面に行きたいと願ったからな。あの世界からおれと言う存在そのものが消えたんだ。
 おれは裏面に行きたいと願ったんだよ。
 ここがそうだ、裏面だよ。お前たちにとっては表面かも知れないがな。ハハ。

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