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Re: 【短編小説】真剣10代しゃべり場太郎

 それは、東京駅の長いエスカレーターを昇っている時の事だった。

 中央線のホームは遠いな、と男は思った。
 男の姓は腎リウ町、名を真剣10代しゃべり場太郎と言う。
 かつて公共放送にあった同名の番組を好きだった親が、その番組が終了する日に産まれた子どもに、番組と同じ名前をつけた。
 幼い頃の真剣10代しゃべり場太郎はその事を恨んで、公共放送を国営放送と口走っては父親に殴られて育った。
 だから真剣10代しゃべり場太郎は公共放送が嫌いだった。

 ここのところ毎日、真剣10代しゃべり場太郎はインターネットに小説を書いては投稿していた。
 しかしどうにも芽が出なかった。
 何を書いたらいいのか分からないし、何を書いても満足はしなかった。
 だから面倒になってきている側面もあったが、とりあえず一年はやるのだと決めたからにはやるしかないと考えていた。
 それに真剣10代しゃべり場太郎は、言った事をやらない人間が嫌いだから、自分を嫌いにならない為にも約束は守るつもりだった。

 真剣10代しゃべり場太郎は、その日も友人と食べたラーメンを題材にして何か小説を書けないかと考えていた。
 東京駅の長いエスカレーターを降りると、広いプラットフォームが現れた。
 夜になったにも関わらず、真剣10代しゃべり場太郎が立っている中央線のプラットフォームは帰省客で混雑していた。

 
 何本か電車をやり過ごす事になるだろうと考えながら、真剣10代しゃべり場太郎はじりじりと歩いて黄色い線の内側と呼ばれるところに立った。
 ぼんやり線路の先を眺めていると、真剣10代しゃべり場太郎は、どちらが電車の進行方向なのかわからなくなった。
 真剣10代しゃべり場太郎は曖昧なままプラットフォームを歩くと、線路の終わりが見えた。


 鉄道線路の終点には縦に曲がったレールがあり、それ以上は電車が進まない様になっている。
 真剣10代しゃべり場太郎は、暗い夜闇の先にあるレールを思い浮かながら、そのレールを作ったひとはどんな気持ちなんだろうと考えた。
 絶対に電車が走る事の無いレールを作ると言う寂しさについて考えると、真剣10代しゃべり場太郎は少し悲しくなってきた。
 それは誰も読まない小説を書いている自分とは全く違う気持ちなんだろうな、と思ったからだ。

 真剣10代しゃべり場太郎は、厭になって線路に飛び込む前に、気分を切り替えようと、ポケットに入れっぱなしだった缶コーヒーを開けて飲む事にした。
 真剣10代しゃべり場太郎が黄色い線の内側に立って缶の中を覗き込むと、そこには目が浮かんでいた。
 その目は真剣10代しゃべり場太郎を見ていた。


 真剣10代しゃべり場太郎は、それが深淵なのかも知れないと思い、覗き込んでいる目が存在する缶を口に当ててひと思いに飲み込んだ。
 真剣10代しゃべり場太郎は口の中でベタベタとする糖分を感じながら、今日の昼にテレビで見たニュースを思い出して、ロキソニンテープを巻いて死ねるのであれば自殺の方法で思い悩む事なんてないのになと思った。

 やがて電車がゆっくりと入ってきた。


 それは真剣10代しゃべり場太郎が終点だと思っていた方向で、真剣10代しゃべり場太郎は飛び込み自殺もまともに出来ないんだなと思ってガッカリしてしまったのでした。

 おしまい。

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にじむラ
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