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Re: 【短編小説】火曜日と木曜日が嫌いなだけ②
うんざりするほど暑い夏がようやく終わり、秋を告げる雨が降っている。その雨は中途半端だった。
青太郎は小雨が嫌いだった。
改札を抜けてホームに立つと、ちょうど電車が来たところだった。自殺サークルの女子高生たちはいなかったので良かったと、青太郎は思った。
電車内は出勤と帰宅、覚醒と酩酊が入り混じって木星の表面みたいになっていた。美しいと思うかどうかは見る人次第だと言うことだ。
青太郎は美しいと思っていなかった。
そう、まるで木曜日だ。
木曜日。それは最低の曜日。誰も好きじゃないし愛された事の無い曜日。
週の折り返しを過ぎたものの、土日まではまだ遠く、中途半端な気持ちをぶら下げた、悪意しか無い陰鬱な曜日。
どうせ明日になればこんなことは忘れてしまいと言うのに、その木曜日を青太郎はどうしても我慢ができなかった。
木曜日に対する憎悪が引き金になって、とにかくそれは大変な事になった。
まず目から体液が出た。ズボンを履いているのだから目から出すほかに何があるだろうと青太郎は思ったけれど、自分の目から出るビーム状の体液を止めることはできなかった。
電車の座席に座った青太郎の前に立っている女子高生は体液に貫かれて死んだ。
青太郎は死んだ女子高生が持っていた飲み物を拾いあげて、そのストローを咥えた。
噛まれてデコボコと変形したストローでシャーベット状の液体を飲み込むと、女子高生の唾液がもたらす覚醒は、全身の海綿体を刺激して再び目から体液が飛び出た。
何人かは目に体液を直撃されて死んでしまったし、何人かは座ったままだったので体液は直線マンピーの奥に到達した。
でも青太郎は別にどうでも良かった。
青太郎はセックスが好きではなかったし、それ以上に火曜日と木曜日が嫌いだった。
青太郎の乗った電車が高架を降りて地下のトンネルに入っていく。
車内は目から飛び出た体液で満たされていた。車内の生きているひとたちは無表情で、もしかしたらこれは夢かも知れないと思ったけれど、現実でもきっと反応したりしないだろうと青太郎は考えた。
我関せず、それが都会で生きると言うことだ。
それにこれは夢なんかじゃない。
青太郎は今朝の夢を鮮明に覚えていたからだ。
青太郎は大きなミストサウナの中にいて、だけどあまり暖かくないから、木製のドアを押し開けて出た。
タイル張りの巨大なスーパー銭湯の中を歩いていくと、打たせ夢の下に便器があり、何人かがクソをしながら肩を打たれていた。
壁に張ってある説明には、イキまずに済むから痔の心配が無いと書いてあった。青太郎は痔になった事が無いから、その苦痛は分からなかった。
その傍を通った先に別のトイレがあった。
便器ではない、設備としてのトイレだった。膝ほどの下がりになっていて、その中は水で溢れていた。
壁に張ってある説明には、こまめな掃除が面倒なので予め消毒液や洗浄液が入っていて、利用者が歩くと撹拌されて都合が良いと書いてあった。
それはどうだろう、と青太郎は思ったけれど、実際に男子便所はチンコと便器の距離感の掴めない奴が多いのだから仕方ない。
青太郎はじゃぶじゃぶと歩きながらさらに奥のシャワールームまで行くと、そこではアダルトビデオの撮影が行われていた。
むかし青太郎が住んでいた街の温水プールで、アダルトビデオの撮影が行われた結果、シャワールームのドアから鍵が取り払われてしまった事に起因した夢だと理解した。
だから青太郎は着ていた服を脱いで、50mプールの真ん中で足を広げているヴィジュアル系ガールの中に勢いよく飛び込んでいった。
そこで青太郎は目を覚ました。
その夢に続きがあったかどうかは知らない。もし続きがあったとして、セックスが好きでもなんでもない青太郎はどうしたのかも分からない。
ただ、いま見ている景色は夢なんかじゃないと青太郎は解釈している。
まるで小陰唇の様に縦長の山手線を体液で満たして走る電車なのだから、もしかしたら神話と言うのが発生するんじゃないだろうか。
そう考えた青太郎はゆっくりと目を閉じた。
目が覚めたら、木曜日は終わりだ。
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