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ヨガの効果、科学的にどんなことがわかっているの?

こんにちは。スヴァーハヨガ、ディレクターの千枝と申します。

以前はnoteを利用していたのですが、しばらく自分たちのサーバで運用していて、やっぱ使いにくくてnoteに戻ってきました。旧記事の整理も一旦終わったので、ここからは新しい記事をnoteで公開していく予定です。改めてよろしくお願いします。

さて、ヨガの指導、ヨガスタジオの運営の仕事以外に、大学院でヨガが脳にどのような影響を与えるかについての研究などもしていまして、研究分野は脳ですが、その他にもさまざまな効果についての論文に触れる機会が多く、へえそうなんだ~と思うことも多々あります。

寄り道で得たものではあるけど、シェアするに値するヨガの効果についての科学的なエビデンスや、それについての考察も時々まとめていこうかな~と考えています。


ヨガの効果、科学的にどんなことがわかっているの?

ヨガの効果というと、まずは「心身の健康」という漠然とイメージをお持ちの方は多いのではないでしょうか。その他、運動不足解消による体重や体型のコントロールはもちろん、ストレスや不安などメンタルヘルスに期待を寄せる方も少なくありません。

実践してみても、そのことは間違いないと感じますが、実は身体を動かす行為を伴うハタヨガについては、効果の測定の難しさもあって「これだ!」という目覚ましいエビデンスを得るまでにはなかなか至っていません。

もちろん、ヨガが心的に、あるいは脳にどんな影響を与えるか少しづつ知見が蓄積されています。でも「これから更に」という分野なんです。(だから自分で研究室をノックすることになったわけですけども)

それよりも以前からエビデンスが多く蓄積されているものが、高血圧や心臓疾患などの循環器系への効果です。


ヨガによって血圧が低下する実験結果が多数

例えば、発作性心房細動患者を対象にした研究 では、ヨガセッションに参加した被験者は、同じ疾患の参加していない患者と比較して、QOL(Quality of Life; 生活の質)の改善、血圧の低下、心拍数の低下が見られたと報告しています[1]。この研究からは、ヨガは心臓疾患に対して効果的な補完治療となりえる可能性がうかがえます。

また、Haginsらによる研究では、ヨガは、ヨガと同程度のカロリー消費エクササイズをした場合を比較すると血圧 [*1] 低下に効果的であったと報告しています[2]。

この実験は、軽度の高血圧症の被験者をヨガ群とヨガと同じ程度のエクササイズを行う群の2群に分け、一定期間ヨガまたはエクササイズを行い、前後の変化を見る介入実験として行われました。また、この2群に分けて行う試験方法はランダム比較化試験(RCT; randomized controlled trial)と呼ばれる信頼性の高い実験方法です。

この実験結果を考えると、血圧の低下のためには適度な運動はマストですが、だからって「やればいい」というものでもないと考えられます。Haginsらは、運動に値するアーサナだけではなく統合的アプローチをしたことによるストレス低減効果が血圧低下に結び付いたのではと考察しています。

また、2019年に発表されたレビュー論文[3]でも、ヨガによる血圧低減効果に加えて、ヨガの練習に呼吸法と瞑想が含まれていると、その改善はさらに大きいと述べています。

心疾患の原因は、実はきちんとはわかっていないことが多い

様々な心疾患のもとになる高血圧、実はほとんどのケースで原因が明らかにされていません。このような高血圧を本態性高血圧と言います。生活習慣や遺伝、ストレスなど、要因のからみが複雑で、ズバッと言えないものを指します。

食事や運動の習慣には強い意志で取り組めても、自分でコントロールしづらいのがストレスの存在です。ストレスには気温や湿度などの気候条件や疲労や睡眠不足などからくる肉体的なストレス、悩みや怒り、ショックなどの心理的ストレスがあります。身体はその理由を問わず、ストレスに対しての防御反応を示します。

防御反応として一時的に血圧が上がることがありますが、長期的なストレスによって高血圧状態が慢性化してしまうリスクが上がります。

また血圧の調節をしているのは自律神経。自律神経は無意識的に行われる身体の調節なので、意図的なアプローチは限られますが、そのひとつがプラーナヤーマ(呼吸法)です。呼吸法から始めて、呼吸に動きをつけていくヨガのシークエンスが、自律神経の調整に貢献するのは確かでしょう。

いくつかの複合的な要因のうち、特に慢性的なストレスが高血圧の主な要因になっている場合は特に、ヨガが高血圧の低減やシリアスな心疾患の予防に有効なのは自然な流れであると感じます。

ストレスとヨガ、確かに深い関係がありそう。ただ血圧と比べるとストレスは数値での計測がやや難しいので実験結果もどう評価するべきか難しいものが増えますが、面白いものがあればまた、紹介していきますね。


「3か月やってみる」こと自体の是非

ここで紹介した心臓疾患に関する2つの研究は、いずれも12週間のヨガの体験による変化です。もっと短いものも長いものもありますが、介入実験では12週間という期間がひとつの目安になっています。このくらいやると効果が出る期間というのが12週間、なのでしょうね。

ここで言う「効果がある」というのは統計的有意のことです。いくら被験者さんが「いい感じです」と思っていても研究としては効果があったとはいえません。だから、実験の場合は介入条件はやや厳しいのが常なのです。

2つ目のHaginsの実験は週に2回のセッションへの参加の他、20分のホームワークを週3回行うように指示しています。これはヨガにハマった人の練習量ですよね。

指導・スタジオ運営している身としての実感としては、初心者さんがスタジオに来るのは週1回程度の方がほとんど。それでも、3か月程度の実践を経ると「こんな変化がありました」と目覚ましい報告が聞けることもたくさんあります。下向きの犬のポーズに変化が見えやすいのも同じ時期。

下向きの犬のポーズ

12週間週3回という頻度だけ見ると結果を出すのはそんなに簡単じゃないと言うこともできます。しかし同時に、統計的有意ではなく、実感としての変化はもう少しゆるやかな実践でも起こり得るということなのでしょう。自分やいつも見ている講師、あるいは周囲の人にはヨガによるあなたの変化の兆しに気づく時期が12週間と言えるかもしれません。

余談ですが、以前にわたし自身が行った12週間の介入実験に参加してくれたある参加者さんは「息切れが減りました」と報告してくれました。血圧は計測項目じゃなかったので不明ですが、息切れは高血圧、自律神経の乱れなどが原因なので起こり得ることではあります。しかも、その方は割と出席率が悪かったんですよね〜

ヨガを始めて「普段から立ち方や呼吸に気をつけるようになった」という人は多く、特に心理質問紙も課せられる実験参加者さんはその傾向が高かったのかもしれません。

面白いなと感じるのは、ヨガは「これをやってるから安心」の方向ではなく、やってない時間への波及が割とあること。

わたし達は忙しい毎日を過ごしているし、飛ばしすぎたら疲れてしまい、やらなさすぎると習慣は容易に失われる。だから、自分のペースで面白い効果が現れるヨガは時短時代の都会人に合う気はします。

だから3か月、とりあえず試してみるのはどうかな。強度も色々あるし、多分、何かしらの良い変化が現れるはずです。

最後に〜あなたが心疾患をお持ちの場合の注意

もしあなたが高血圧症や心疾患をお持ちであれば(あるいはシリアスな予備軍)の場合、頭が下になる逆転ポーズにはご注意ください。

完全に避ける必要があるのではなく、10秒以上のキープをしないようにするなど、適切な休憩を取れば大丈夫なことがほとんどです。チャイルドポーズと呼ばれる(写真)ポーズを合間に挟むなども有効です。

チャイルドポーズ(子供のポーズ)正座の状態から上半身を前に倒すポーズ。お腹がつかえたら膝を開いたり、肩に違和感があるようなら腕を脚側に伸ばしたり快適な形にアジャストしてね。

かかりつけの医師がいる場合は事前に相談して、信頼できるヨガ講師の指導を受けられることも重要です。その場合、先に先生にも申告しておけば配慮していただけると思います。

日本ではヨガの地位がそんなに高くないこともあって、医師にヨガの知識がほとんどない、あるいはヨガ講師の医学的・科学的な知識が乏しいことなどがアドバイスを得るための障壁となることもあるかもしれませんが、きちんと相談できそうな先生を探すことをお勧めします!

ぜひ、安全かつ意味のあるヨガライフを!

この記事を書いたのは…
津野千枝(Svaha Yoga Founder)
ヨガしてる人らしさやヨガの先生らしさを目指すのではなくて人生の中でヨガを活かし、ヨガというメソッドの恩恵に報いる何かがしたくてなぜかアカデミックの世界へ。でもスタジオ運営クソ忙しくて論文書くひまない。

SVAHA YOGA well-being studio
豊かな指導経験から得た現場の知恵と、科学的な見地に基づいたアプローチに基づく現代的なハタヨガスタイルのレッスンが受けられます。ビギナーには取り組みやすく、長年のヨガ実践者にも実りある練習ができる環境を提供しています。東京都中央区、茅場町駅・八丁堀駅徒歩5分
https://svaha-yoga.com


[Notes]

*1 24 時間自由行動下平均拡張期血圧 (-3.93mmHg)、夜間䛾拡張期血圧(-4.7mmHg)、24 時間平均血圧(-14.23mmHg)

*2 それまでの文献の総説に当たる論文

[References]

[1]Wahlstrom M, Rydell Karlsson M, Medin J, Frykman V. Effects of yoga in patients with paroxysmal atrial fibrillation - a randomized controlled study. Eur J Cardiovasc Nurs. 2017 Jan;16(1):57-63. doi: 10.1177/1474515116637734. Epub 2016 Jul 7. PMID: 26976659.

[2] Hagins M, Rundle A, Consedine NS, Khalsa SB. A randomized controlled trial comparing the effects of yoga with an active control on ambulatory blood pressure in individuals with prehypertension and stage 1 hypertension. J Clin Hypertens (Greenwich). 2014 Jan;16(1):54-62. doi: 10.1111/jch.12244. Epub 2014 Jan 4. PMID: 24387700; PMCID: PMC3948002.

[3] Wu Y, Johnson BT, Acabchuk RL, Chen S, Lewis HK, Livingston J, Park CL, Pescatello LS. Yoga as Antihypertensive Lifestyle Therapy: A Systematic Review and Meta-analysis. Mayo Clin Proc. 2019 Mar;94(3):432-446. doi: 10.1016/j.mayocp.2018.09.023. Epub 2019 Feb 18. PMID: 30792067.

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