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アサナのトリセツ第2回:下向きの犬のポーズ【基本編】

ヨガの実践方法はアサナだけではありません。ポーズが取れることよりも、そのプロセスでの逡巡、そして気づきこそが重要でありパワフルです。

とはいえ、少しでもアサナを洗練させていきたいのが人の常。このコラムでは、基本のポーズの基本のアプローチを、わかりやすく、少しだけマニアックに説明します。

すべてのアサナの原則は「安定していて快適」であること。日常生活では行うことのない不思議な姿勢ばかりのヨガポーズを安定させ快適に行い、そして心身への効果を最大限にするためにはどうしたら良いのかについて解説します。

今回取り扱うのは最初にみんながつまづきやすい下向きの犬のポーズことダウンワードフェイシングドッグ(通称ダウンドッグ)。このポーズは本当に話すことが多いのですが、まずは「快適に行えるようになるまで」の道筋をお話しします。

アラインメントについての説明が多くなりがちなので、アラインメントとは何か、その意義について知りたい方はこちらをお読みくださいね。


アドムカシュヴァナーサナとは

日本語名は「下向きの犬のポーズ」英語のDownward Facing Dogを略して「ダウンドッグ」と呼ばれることが多いポーズです。この記事でも読みやすさを重視してダウンドッグという呼称を採用しますね。

アサナ名は、顔(ムカ; Mukha)を犬(シュヴァナ; Svana)のように下向き(アド; Adho)にするアサナという意味を持ちます。

犬って実際に寝て起きた時にこのポーズのようなかたちでストレッチします。背骨を強くストレッチするポーズですが、犬にとっても背骨のS字のカーブが保たれていることは快適さのベースなのでしょう。

しかし股関節から大きく屈曲する前屈のポーズでもあり、背骨のS字カーブを確保するのは最初はとても大変です。


深い前屈では背骨のカーブは丸まります。
きれいなダウンドッグでも腰椎から仙骨が丸まってしまうことはしばしば


コツコツやっていれば少しづつアサナは安定し洗練されますので、理想を忘れずに自分の身体と相談しながら練習しましょう。

また頭が腰より下に向く逆転のポーズでもあります。頭に血が上って苦しくなって苦手、という方もいらっしゃいますよね。そうしたら休んでくださいね。

この記事を読み終わる頃には、どこをどうがんばればいいか、そして力の抜き加減についての理解が進んでいるはずです。

Benefits【ポーズから得られるもの】

姿勢改善にとても有効なポーズです。

腕を上げた状態で股関節を屈曲するため、体側・背面をストレッチするため、呼吸が深くなります。ポーズをキープ、安定させるためには四肢だけでなく腹筋、背筋も要するため全身の筋力トレーニングになります。

注意と禁忌
手首、肩を痛めている、高血圧
これに該当する方がポーズを行う場合は軽減法で行い、違和感を覚えたら速やかにポーズから離れるようにしてください


下向きの犬のポーズへのアプローチ


①四つ這いになる

肩の真下に手、腰の真下に膝をつく。手のひらは大きく開き、手首はまっすぐに、
肩幅よりやや広くすること。膝と膝の間は拳ひとつ分開けて骨盤幅に保つ

②つま先を立てる

足裏が硬く、かかとの下に
つま先を持って来れない場合は膝をほんの少し(膝の縦幅の半分程度)前に出してもOK

③腰を斜め上に持ち上げる

息を吸いながら膝を床から離し、腰を斜め後ろに持ち上げる。
まずは一旦行けるところまで

④呼吸に合わせて片足づつ曲げ伸ばしをする(ペダリング)

片膝を曲げたら逆足のかかとを押し、膝を伸ばし、反対側も同じように.
呼吸に合わせて何度か繰り返します。
伸ばしている側の脚に適切に体重を乗せてストレッチしましょう

⑥数呼吸そのまま保持する

最初は3呼吸程度で十分です。呼吸のタイミングが逆になっても気にしないで!


⑦吐く息のタイミングで子供のポーズになる

頭を下げた後なので手で枕を作っていますが、腕は伸ばしてもOK
膝を開いたり、その他のバリエーションでももちろん大丈夫です

下向きの犬のポーズのポイント

①エネルギーの方向が大事

腰を頂点に持ち上げるけれど、踵は押す!

慣れないポーズに驚いた身体は、無理な力が入って丸まってしまいがちです。力が入りすぎるとエネルギーは理想的な方向とは逆向きになってしまうことがしばしば。ひとまず、図のエネルギーの向きを見て真似をしてみてください

問題ない箇所はあなたの得意な動きに関わる部位、やりにくいところは普段動かしたり意識していない部位であるはずです。

どうすれば快適に行えるか、軽く動いて工夫しながらポーズを練習してみましょう。

②手首のアラインメントを大切に!

初心者さんのうちは手首が内側に向いてしまう人も多いのですが、実はこれは手首の故障につながりやすい危険なアラインメントです。

インドの医療論文では、ヨガ人気が高まるにつれ手首の母趾関節の変形や疼痛が増えているとのこと[1]。論文検索サイトで「yoga wrist pain」と入れてみると手首疼痛やその治療に関わる報告が増えているのがわかります。

プランクポーズやダウンドッグなど手首伸展状態で体重がかかるポーズでは、手のひら全体に体重を分散させることで怪我のリスクが下がります。

手首をまっすぐにしたら、親指側だけではなく手のひらの外側にも体重をかけ、できれば指の腹でもマットを押しましょう。ポーズに入るとたかだか手を開くだけのことが結構難しいのですが、心がけていれば少しずつ必要な筋力がついてきます。怪我する前に見直して!

指の腹が浮く人もいますよね。手首に負担がかかりやすいので気をつけましょう。

③手と足の距離を大切に


手と足が近いと窮屈だし、遠すぎてもやりにくいですよね。そうすると余計な力が入って肩こりなどの原因になります。初心者さんのうちはテーブルポーズから土台の位置を変えないでお尻を持ち上げるようにしましょう。

①のエネルギーの向き、そして②③は土台に関わること。マットに面している土台の部分はアサナの質に直接関わります。ダウンドッグは色々な入り方があり、必ずしもテーブルポーズからの流れとは限りません。ポーズに入ってみて違和感があったら床に膝を置いて距離を測り直してみましょう。快適で安定したポーズに近づくはずですよ。


これは練習全体に言えることですが、ポイントを押さえて、無理をしすぎないのが大切。特に逆転ポーズは苦しくなりやすいです。あんまり苦しかったら休んでいいんですよ。休もうかどうしようか迷ってるうちに次のポーズに進んだら「やり切った!」「できた!」と自分を褒めてあげてくださいね

初心者の方に

①ブロックを使ってみよう

プロップスはスタジオに完備してます。どんどん使って!

手のひらの下にブロックを置いてみましょう。最初のうちは肩や背中の柔軟性が不足しているため、肩関節が十分に進展できないことがあります。

ブロックを使うと、肩の位置が高くなり肩関節の伸展角度が確保されるため、腕が自然な位置で楽に伸ばせます。肩や手首、背中の負担が軽減され、初心者でも正しい姿勢を保ちやすくなります。無理な姿勢で我慢しすぎるよりも効果的に柔軟性や筋力を向上させることができます。②上半身をストレッチしたいなら

②立位のダウンドッグを日常に

シャツ脱いだ方がわかりやすかったね…ごめん

窓枠や椅子の背中を使って立って行うダウンドッグを寝る前や起き抜け、隙間時間などにやってみみましょう。手軽なストレッチとしてとても効果的なバリエーションです。

やり方は、窓枠や椅子の背もたれに手を置き、後退りしながら上半身を前に倒して呼吸しながらストレッチをするだけです。背中も脚も伸ばした状態で行える位置を探します。脇や背骨を特にストレッチしたい時は、呼吸に合わせて膝を曲げ伸ばしするのもおすすめです

③手足が滑るのは…


ポイント③の手足の距離をきちんと測るのが大前提ですが、それでも滑ってしまう場合があります。真夏や始めたばかりの頃は汗を吸うマットや日本手ぬぐいを使うのも良いでしょう。手首の負担が減少します。

少し慣れてきたら腸腰筋を使うことを意識してみましょう。

左が大腰筋で右が腸骨筋、合わせて腸腰筋。股関節を折り畳むのが仕事です。
階段を登ったり走ったり、ダウンドッグの時にも使えます。

ダウンドッグは実は股関節が90°折り畳んだの屈曲位なので股関節の屈曲角度をキープすることが必要です。

座っているときは股関節は屈曲しているので、わざわざ「折りたたもう」とは考えない部位。だから「曲げておこう」と思うだけでも変化があります

最初のうちは短い時間しか持ちませんが、意識して行うことでポーズが洗練され、余計な力みを抜いたダウンドッグが実現します。腸腰筋が使えるようになると骨盤のポジションが安定し、姿勢が改善し、お腹がスッキリと見せるようになります。

最後に

現代のハタヨガのアイコン的なアサナである下向きの犬のポーズ。
日本におけるヨガは「楽」「苦しくない」というマーケティングが長らくなされてきましたが、このポーズは見るだけでも「そんなわけないでしょ」と思う人もいるのではないかと思います。

とてもパワフルなポーズで、適切に行えばたくさんのメリットがあります。しかしちょっとしたミスアラインメントが故障につながるリスクもあります。土台のアラインメントを軽視しないこと、周囲を気にして無理をしすぎないことがリスク回避の道です。

基本編というには少しマニアックなコツも並べましたが、実はまだまだいくらでも書ける…そのくらい奥深いアサナですが、ここに書いてあることを実践するだけで入り口はスムーズになるはず。ぜひお試しを!



 References

  1. Agarwal A, Murray TE, Cresswell M, Chandra A. Dorsal Wrist Carpal Boss Impingement-Dynamic Ultrasound to the Rescue! Indian J Radiol Imaging. 2023 Sep 4;34(1):150-153. doi: 10.1055/s-0043-1772691. PMID: 38106849; PMCID: PMC10723960.

この記事を書いたのは…
津野千枝(SVAHA YOGA well-being studio ディレクター)
自分軸を育てるヨガをがレッスンテーマ。自分自身の心身に向き合い、学び、育てたい人を応援します。

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