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Dior の文化左翼的メッセージ。

いやぁ、時代は変わったものですよ、ラグジュアリーブランドがただゴージャスな服を発表すればいいっていう時代は遠い過去になっちゃったんですね~。いまや、Dior がフェミニズム、LGBTQ、弱者の人権尊重、多文化共生などなど文化左翼のメッセージを掲げてコレクションを発表しているではありませんか。(もしかしてこれはBernard Arnault総統率いるLVMHの意向なのでしょうか?)アメリカ民主党政権の主張と同じものですね。


文化左翼の系譜はそもそも(汚名を着せられ続け、しかも国民国家の時代の犠牲者たるユダヤ民族の)知識人グループ、ドイツのフランクフルト学派によってはじまったもの。ひとり誰か影響力のある学者を挙げるとすればアドルノでしょう。現実の社会主義国はいまや中国、北朝鮮、ヴェトナム、ラオス、キューバだけであるにのはご存じのとおり。しかし、マルクス由来の疎外論を基礎にして、愛ある社会を希求する強い意志、すなわち前述のような文化左翼思想はいま世界中で隆盛しています。Diorのメッセージは、「聞け、万国の労働者」ならぬ、いわば「聞け、万国の女たち&マイノリティたち」ですよ。いいですか、Diorのドレスなんて一着30万円~90万円。こんなもんが買えるのはブルジョワだけですよ。それはそれでひとつの美の在り方だとおもうけれど。しかし、このDiorのビジネスとこの主張、ちょっと奇妙に感じませんか?


現地時間2023年5月20日(土)、Diorはメキシコシティでクルーズ2024年 コレクションを発表しました。(さすがラグジュアリーブランド、夏と言えばクルーズ、タモリさんみたいですね。)今回のコレクションの主題はメキシコを代表する女性画家、魂の女、受難の人生を生きながら自画像ばかり描きまくったFrida Kahloですよ。なるほど、このキーワードだけでイマジネーションが広がります。Diorは最高技術を誇るパタンナー集団を抱えていますから、デザインを具現化する能力は高い。
(東京都現代美術館でおこなわれた”クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ”展、順路の最後、圧倒的でしたね。)しかも今回は、メキシコのテキスタイルや刺繍を活かし、けっして文化搾取と言われないようにメキシコ人のスタッフとの共労によって服作りがなされています。もちろん相手の文化への讃辞も忘れない。今回のコレクションには新しいchic 、エキゾティックなエレガンスがあって、美しいんですよ。デザイナーはMaria Grazia Chiuriさん。


フリーダ・カーロは絶望に満ちた人生でありながら、華やかな恋愛をいくつも経験し、カラフルでかわいらしい家で、執念深く自画像ばかり描き続けた。その生きる意志の強さに人は心を打たれずにはいられません。

フリーダ・カーロはメキシコ先住民であり同時に父親は写真家でドイツ育ちのハンガリー系のユダヤ人。とうぜん彼女もユダヤ系メキシコ人であり、ごくわずかながらインドの血も混じっています。彼女は6歳で急性灰白骨炎にかかり、右腿から踝にかけて成長が止まって痩せ細ってしまいます。(彼女はこれを隠すためにズボンやメキシコ民族衣装のロングスカートなどを好んで着た。)彼女が画家を志す。ところが18歳のときに通学に使っていたバスが路面電車と正面衝突し、生死の境をさまよう重傷で、3か月の間ベッドの上での生活を余儀なくされ、その後も事故の後遺症で背中や右足の痛みにたびたび悩まされるようになる。彼女はメキシコ共産党に入党し、21歳年上の画家Diego Riveraと結婚。ところがふたりとも性生活が乱脈ゆえ、恋愛は華やかながら、結婚生活は波乱万丈。それでもふたりは結婚を続けたゆえ、ふたりにしかわかりえない強い信頼関係があったのでしょう。なお、フリーダ・カーロはバイでした。晩年は脚先が壊死して足を切断、義足生活を余技なくされる。彼女は絶望し、肺炎にかかって死んだ。


そのうえDior クルーズ2024年コレクションの音楽は、Vivir Quintanaさん(b.1985-)ですよ。彼女はメキシコ人のシンガーソングライターで、女たちが男たちから受けたいわれのない暴力を告発する歌、"Canción sin miedo-恐怖のない歌"を作って、いまやフェミニストたちの国歌みたいになっています。

これが凄い歌なんですよ。抜粋でお届けします。


毎週毎分あの連中はわたしたちの友達を盗み、
わたしたちのシスターを殺す。
あの連中は体を壊し、姿を消す。
あの連中の名前を忘れないで、大統領。

わたしたちは恐れることなく歌い、
正義を求める
わたしたちはすべての行方不明者のために叫ぶ。
大声で鳴り響かせよう、
わたしたちはみんな生きていたい。
殺される少女たちをなくそう。

もっとも、Dior クルーズ2024年コレクションでこの歌が使われたかどうかはわからないけれど、いずれにせよ、彼女を選んだメッセージは明快です。なお、Vivir Quintanaさんは他に、愛し合う者同士のくちづけのよろこびについて歌っておられます。ポルカのリズム、アコーディオン、コントラバスののどかで愛らしい歌ですね。



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