見出し画像

"Enjoy yourself!" それがPaloma Faithのメッセージ。

パロマ・フェイス(b.1981-)の歌を聴いてぼくはびっくりした。なんだこのドスを効かせた化け物じみた声は。いちおうメゾソプラノらしいけれど、しかしとうてい信じ難い。まるで低音部の声と高音部の声、ふたつの声を持っているように聴こえる。彼女のヒット曲”Only Love Hurt Like This ”(愛だけがこんなにもわたしを傷つける)のトラックは、Phil Spector サウンズで、いわばひとりロネッツでしょ。いやぁ、堂々たるアナクロニズム(時代錯誤)にぼくは呆れた。いやはや、大瀧詠一大先生も天国から投げキッスでしょ♡ 




しかも、他の曲もゴスペルをはじめ多彩なネタ元を持ちつつも、良く言えばカネのかかったハリウッド映画的なのだけれど、悪く言えばどれもこれも新曲なのにナツメロなんだ。(歌はめちゃめちゃ巧く表現力はゆたかで、サウンドのクオリティも無駄に高く、ほどよくいまっぽいけれど、とはいえ高円寺PAL商店街に似合いそうでもあって。)けれども、注目すべきはそこじゃない。じゃあ、いったいどこなんだ???



パロマはスペイン人の父と英国人の母のあいだにロンドンで生まれた。パロマが2歳のとき両親は離婚。母親の手で育てられた。彼女はコドモの頃からバレエを学んだ。若い頃のパロマは数々のバイトをこなした。キャバレー歌手、ランジェリーのセールスウーマン、マジシャンのアシスタント。これらのバイトで稼いだカネで、パロマはコンテンポラリーダンスの学士号と演劇演出の修士号を取って、ショービズの道に進んだ。彼女は2009年のホラー映画Dreadに出演し、2007年後半にThe Imaginarium of Doctor Parnassusで、女子高生役としてデビューしたとき、彼女はまだ24歳だった。


そんな彼女は意外にも倫理的な考えを持っている。「あたしはドラッグをやらないことが新しいロックンロールだとおもう。とくにロンドンじゃ誰もがドラッグをやってるでしょ、でも、むしろドラッグやらない方がユニークで反抗的だとあたしはおもう。ソングライターが作曲するために化学物質に頼るなんてだらしのない選択。あたしは自分の脳ミソ使ってlateral thinking(水平思考)に挑戦しています。(訳註:視野狭窄の目的一直線思考ではなく、水平思考とはむしろ多元的な思考のこと。)そもそもあたしは依存症者をかなり多く知っていて。コドモの頃、飲酒が人にどんな悪さをするかも見て来たから。」


この歌詞の意味は深い。なかなかこんな歌詞、書けるものではありません。


パロマはつねにタブロイド新聞を賑わわせていて、さいきん彼女は十年間暮らしをともにして二児をさずかりもした元夫(?)Leyman Lahcine (フランス人。画家そのほか)と別れ、その悲しみと心の傷をアルバム The Glorification of Sadness (-悲しみを栄光に-2024年2月リリース)の主題とした。




Paloma Faith は自分の存在と人生そのものをなまなましく表現にしている。芸能人はそういうものでしょって言われそうだけれど、でも、日本でそれをここまで完璧な表現として売ってる人はいない。とっくに彼女はヨーロッパの、時代のアイコンのひとりだ。彼女の表現は多くの人を夢中にさせる。もっとも、西側諸国のなかで日本だけは音楽マーケットがガラパゴス化しているから話は別とはいえ、しかし、それでもそんな東京でも夕暮れに美容室を出たキャバクラ勤めのフィリピン美女が、戦闘服CHANELに身をつつみLouis Vuittonのバッグを携えて、暮れなずむ雑踏のなかパロマの歌を聴き、まるでパロマが自分のことを歌っているかのように胸をしめつけられながらを出勤しておられることでしょう。他方、表現者のよろこびは、自分の表現が多くの(愛すべき)受け手のものになることなんだ。



"Enjoy yourself!"



thanks to Daily Mail on line

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?