短篇集・短篇連作漫画ランキング(白)
短篇集・短篇連作漫画ランキング(白 2019.11.23)
1位 神戸在住(木村紺)
2位 ギャラリーフェイク(細野不二彦)
3位 愛すべき娘たち(よしながふみ)
4位 胡桃ちの作品(ミッドナイトレストラン7to7、パパロバ他)
5位 COPPERS(オノ・ナツメ)
1位 神戸在住(木村紺)
主人公辰木桂(神戸の美術学生)の大学時代を描いた短篇連作。 美術関係、友人関係、季節の話。とりとめのない日々の徒然なる話が神戸のあちらこちらで繰り広げられる。地の文が桂による一人称であるため、まるでエッセイのような、散文のようなスタイル。僕は他の漫画では見たことはない。 絵のタッチがやさしいこと、また、桂の性格が比較的大人しいこともあり、読者は優しく穏やかな時間をともにゆっくりと過ごすことができる作品。 なお、作中の時間は1990年代後半~と思われ、今の神戸とは多少違うところもあって、先日ポートアイランドの神戸空港を出張で使用したのだが、以下のようにまだ神戸空港はない。
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「そーいやかこっち車は?」
次第に風が強くなり、
「今 車検出しとー あの車ボロいし」
風景は荒寥としてくる。
「何もない所だね」
「この辺は二期工事やから」
日頃なじんだ街とはあまりにかけ離れた風景の中で、私達の歩くこの長い道はまるで古い映画のワンシーンの様だ。
「『この場所は神戸市の管理地につき 関係者以外立入禁止』やってさ」 「あらら ごめーんこんななる思わんかった!」
「この向こうどないなっとーやろ」
「見える?」
……びゅうううぅぅ…
「こんなに広い土地何に使うんだろね」
「空港やん神戸空港 ようテレビでやっとーやろ」
「ホンマ空港いるんかなあ そんなんよりもっと住んどーもんにお金かけてほしいわあ」
「流通的には期待されとーらしーで 経済学部の子ォがゆーとった」
私が神戸に来て、最初に強く受けた印象は「空が広いなあ」と思った事。 「飛行機 うるさくないといいのにね」
「せやね」
「この空が狭くならなければいいのに」と思うのは、身勝手な気持ちだろうか。
「あ 今思てんけどやー ここディズニーランドにしたらええ思わへん?」 「あはははいいねーそれ」
「うちもさんせー」
それからすぐに日が暮れた。
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この言葉遣いもとても自然というか、すっとなじんでくるものが僕にはあった。身の回りの小さなものを、大事にできるような、そんな時間を過ごせる。
なお、木村紺は「巨娘」もおすすめ。
以下は余談だが、フィクションのキャラクターで結婚したい相手みたいなアンケートを現役(Clock時代)に内輪でやったことがあって僕は本作の桂を挙げたところ、柘榴さんから「白さんがそーゆーのはわかるけど、白さんには年上のひとの方がいいと思う」と言われてしまった。
桂がもしそのまま年を重ねていたら、2019年だとだいたい40歳くらいか……それはそれで、ありな気もする……!
2位 ギャラリーフェイク(細野不二彦)
Wikipediaの概要がほぼ完璧だったので転載する。
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表向きは贋作・レプリカ専門のアートギャラリー『ギャラリーフェイク』を舞台に、オーナー藤田玲司が、様々な登場人物と様々な美術品を通じて、時に世界を駆け巡り、「美とは何か?」を追い求める。主人公は単なる守銭奴・単なるビジネスではなく、アートへの奉仕者、美の探求者として清濁併せ呑む人物として描かれている。美術・芸術・骨董・その背景となる歴史などの多分野にわたる薀蓄的描写があり、助手サラ・ハリファとのほのかな恋の行方も描かれる。
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絵に関する漫画が好きなのだが、これはその筆頭のひとつ。
フジタがまずかっこいいよね……プロフェッショナル出れるわ。絶対出たくないって言いそうだけど。どこかで憧れの人物にフジタって書いた気がする。
美術館での鑑賞の仕方は誰に教わったわけでもなく完全に自己流なのだが、強いて言うならこの作品に影響を受けているかな、とは思っている。
絵を白黒の漫画で描いているわけだが見ごたえあり。出てくる作品のほとんどが実在するものであり、実際に美術館で見られることもあって、「これギャラリーフェイクでみたやつ!」ができる。美術入門にも適していると思う。
一度完結したが、最近連載が再開された。
3位 愛すべき娘たち(よしながふみ)
これは柘榴さんにClock時代に教えてもらった作品。
柘榴さんからはよしながふみは色々借りて読ませてもらった。
「大奥」「きのう何食べた?」「西洋骨董洋菓子店」あたりが有名作品であるが、個人的にベストなのはこれ。
短篇連作のため、短篇に切れ味(余韻)を毎回出しながら、最終的に長篇のような深さをもってくるのが恐ろしいところ。
タイトルの通り、「愛」「娘」がテーマとなるのだが、その愛のカタチは様々であり、それぞれに真剣であって、真摯に描かれている。五本の短篇があるが、部員全員に読ませてどれが好きか座談会したい。
よしながふみはものすごく画力が高いのだが、ときどきふっとマンガ的なというか力の抜いたデフォルメ絵が出てきて空気を抜くのがとてもうまい。そうしておいて、最後に静謐な横顔だけなんかでぜんぶぜんぶ表現しちゃったりするものだから、この作品はとてもすごいのだ。
4位 胡桃ちの作品(ミッドナイトレストラン7to7、パパロバ他)
ここでは胡桃ちの四コマを指す。
基本構成要素は、「お仕事」「恋愛」「コメディ」で、そのバランスや内容がタイトルによって変化する。
わかりやすいのはお仕事内容が変わって、「パパロバ」は宿仕事、「ミッドナイトレストラン7to7」はレストラン、「つなみティーブレイク」は紅茶専門のカフェで、「ギフコン」はデパートのギフト専門のコンシェルジュ、「桜田ファミリアツーリスト」は小さな旅行代理店、「神シュフ☆エンタ」は主夫といった具合だ。
その職場でだいたいなんらかの騒動が起きそれを解決する、あるいはその職場でなんらかの恋愛要素が進展し後退していく、のふたつが基本コメディときどきシリアスに描かれるのがほぼ全て。
キャラに魅力があるのと、お仕事内容がなかなかプロフェッショナルなのだけどさらりと面白くついつい読み進めてしまう。
仕事に疲れて帰ってきてちょっと読むとか、休みにだらだら読むとかに向いてると思う。どれか読んでみてイケれば他の作品もだいたいイケるはず、ということで胡桃ちの作品としてまとめさせていただいた。
5位 COPPERS(オノ・ナツメ)
ニューヨーク警察51分署をとりまくひと達の短篇連作集。
オノナツメの絵のテイストがこのニューヨークにとてもよくあう。
警察官にスポットが当たる群像劇なのだけど人数が多い。署長が入院して署長代理になった堅物のカッツェル、優秀かつ人望のある警部補ヴォス、ヴォスといまいち相性悪げな刑事キース、キースの相棒(部下)で本人は真面目らしいんだけどイマイチどうにもミスが多く成長のみえない若手刑事ヴァル、ベテランといえば聞こえがよいが要は万年ヒラ巡査タイラー、巡査なんかとっとと通過して特殊部隊に行きたいのにタイラーと組まされて不満タラタラな若手アーロン、仕事のトロくて弱腰な署内の序列が最底辺ぽい内勤専門の巡査ハウスマン、ちょっと気張りすぎな大食い女性刑事モーリーン、、やらなんやらと警察官だけでもいろいろ、いろいろ。
さらには分署の隣のデリのお兄ちゃんラスや、警部補の親友?の日本人記者アキ、何故か毎日分署にきて署を取り壊せと文句を言う爺さん……。
作中を貫く時間軸となるのはカッツェルのジンクス。
このカッツェル、なにがしかの初日と最終日には何事かが起こるジンクスがあると言われており、署長代理の初日から最終日までのストーリー。
短篇連作でそれぞれに起こる小さなことから大きなことまでが描かれるのだが、皆それぞれに大変なことはあるのだけど、明日をちょっと頑張れる、そんな読後感がとても気に入っている。