夢中になる少女
「……っと。あれ」
みんなは、どこに行ったんだろう。
棚から手に取ったイヤリングが、宙ぶらりんになった。これ、めっちゃかわいいね!って言おうとしたのに。
友だちの声は聞こえてこない。
左右を見ても、気配がない。
ばっと、身を翻して隣の陳列棚へと走る。
いない。
ここもいない。
そのとなりは?
そういえば、
前にも、こんな気持ちになったことがあった。
幼稚園でふと、お庭に咲いた小さなお花が気になった。黄色の花びらをつけたお花は、遊んでほしそうに風に揺れていた。
「ママに見せよう」
花束にして、ママに見せるんだ!
わたしは夢中で摘み取っていく。
むちむちの足を曲げてしゃがみながら、ひとつずつ丁寧に。
左手には、どんどん黄色の花が集まっていく。
本数が増えるたび、気持ちも膨らんだ。
ちょっと足が疲れたなあ。
立ち上がったとき、たったひとりで門のそばにいた。
みんなは、遠くの遊具で遊んでいる。
先生たちもそこにいて、明るい弾む声が複数聞こえてくる。
急にこわくなった。
ひとりぼっちでいることに。
左手に視線を移す。
黄色の花束は、不思議そうにわたしを見ていた。
「あ!いたー!探したよ!」
声のする方を振り向くと、一緒にお買い物に来た2人がいる。
パタパタと駆ける音と一緒に、笑顔がふたつ近づいてくる。
「それ、めっちゃかわいいね!」
手にしたイヤリングに目を移す。
ビーズの菜の花が揺れている。