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布団から4 #布団から #シロクマ文芸部 #小説

布団からメモ用紙を置く。
それを拾い上げるのは母。

「買ってきたら、置いておくね」
そう言って部屋から出ていった。

数年前に俺は
殺人未遂を起こした。

それから、家族とも世の中とも
遮断された布団の中で過ごす。

必要な物があれば、
布団のからメモ用紙に書いて置いておく。

毎朝、母が部屋に入り
確認してから出ていく。

食事には興味がなくなった。
ただ、生きるために必要な
カロリーを取るためだけに
ゼリー飲料を胃に流し込む日々。

これでも生きていると
言うのだろうか。

日々、どこかで誰かが
不慮の事故や災害で亡くなる。
それを羨ましいと思うのは
俺だけだろうか。

パソコンをする為に
座る事も苦痛になり
買い与えられたスマホを
触るだけの日々。

それさえも面倒で
処方された薬で一日中
寝ている事もある。

なぜ両親が
何も言わないか。

言っても仕方ないと
諦めているからだろうか。

このまま永久に眠って
しまえないだろうか。 
日々そう思っている。


自宅にくるカウンセラー。
布団の中から出る事もない俺に
声をかけ続けて何年になるのだろう。


馬鹿らしいとは、
思わないのだろうか。


人の死に興味があった。
だから殺そうと思った。
なんとなくだった。

映画で見たように
ただ映画の様にうまくいかなかった。

スマホで映画を再生させる。
ホラー映画で死にゆく人を
羨ましく思いながら
ただ画面をみる。

ミステリーの謎解きよりも
殺され方が気になった。
どうすれば死ぬことができるのか。

俺の履歴にはホラーとミステリー、
パニック映画が並んだ。

それでもいい傾向だと
カウンセラーは言う。
映像を見られる様になった事を褒める。
馬鹿馬鹿しい。

スマホの小さな画面で
小説を読む。

もちろん恋愛小説になんて
1ミリも興味がないので
クリックした事さえない。

人の死後や、どうやって
腐敗していくのか。
そんな事を調べてどうするのか。

もう、俺に自由はない。
このまま布団の中で
一生を終えるつもりなのに。


日々生きている事が
馬鹿馬鹿しく、寿命とやらがあるなら
早くなくなってほしい。
死神がいるなら早く
俺の首を落として欲しい。
日付も時間も関係ない俺は
日々布団の中で死を望んでいた。



バタバタとデカイ音を
立てて階段を上ってくる気配がする。

激しい音を立ててドアが開く。

とうとう父親がキレたのか。
なんとなく、そんな気がした。

しかし父親は息を切らして
「そのままでいい、早く車に乗れ」
と激しい口調で俺に言う。

もちろん布団を被り
無視を決めこむ。

「母さんが、病院に運ばれた。
とにかく、お前も来い」

母さん…が病院。

よくわからない。
なぜ母親が。

布団が無理矢理、剥がされ
スエット姿の汚い俺の手を引き
父が車に俺を押し込んだ。

車の中で、
自転車で帰宅途中に
車とぶつかり運ばれた事、
病院に早く向かうように
連絡があった事を伝えられた。


スエットにサンダルの
俺を引きずりながら
病室へ向かう。


母の名前が書かれた病室に入る。
何本か一瞬では
数え切れない数の
チューブが突き刺さった母が
ベッドで眠っていた。

父が、母の名を繰り返し
呼び続けている。
病室の扉に背を預け
ズルズルと力が抜けていく俺。

何がなんだかわからない。
夢なのか。
父は俺にも母に声をかけろと
言った気がする。
それでも俺は動けなかった。


ズルズルと力の抜けた俺は、
ペタンと床に尻をつけたまま
数歩先の両親を
映画のような、テレビのような
映像で見ている事しか出来なかった。


医者と、看護師が病室に
入ってきた。
座り込んでいる俺に気づいた
看護師が、母の側の椅子に
座らせてくれた。

包帯だろうか、ガーゼだろうか
半分しか見えない母の顔は
人の顔色にしては薄かった。

医者が何か言っているが、わからない。
頭をはげしく横に振って
今の状況から、
こんな夢から早く覚めてくれと願った。

分厚い書類を
渡された父の顔色が
悪くなっていった。

俺は布団から、はみ出した
母の手を戻そうと触れた。

力なく垂れ包帯が巻かれ、
チューブが刺さっていた。


俺が生きてる事に耐えきれず
自分を殺したあの日。
自分を殺し損ねて
殺人未遂になってしまったあの日。

病室で目を覚ました
殺しそこねた自分の手よりも
母の手はひどく冷たく感じた。



それからたった1週間で
母は、自宅に帰宅した。




黒いスーツを着た俺は
母の好きな物が何だったか
思い出せず。
母の写真の隣にメモ用紙を置いた。

もう使う事のないメモ用紙。

写真の中で笑っている母は
少し若かった。
化粧をしているから
そう見えるだけかもしれない。


父が俺に
ハンカチを渡してきた。

俺の顔は失禁したように
ずぶ濡れだった。

「エッセイ」布団から〜遠い記憶〜#シロクマ文芸部|sanngo

さんちゃんの記事を読んで
フェイクを入れて
書いてみようと思えた。

ありがとう
さんちゃん。


#シロクマ文芸部

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