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水槽の魚の夢

(泡音を聴くのに命の音が邪魔)

無機質な餌が満たすものが
少なくとも心でないことを知っていました
わたしが食べたのは誰かの命
一度は血が通ったものだからこそ
生を譲り受けられるのだと信じていました

(小さなバグを積み重ねてる)

世界は直方体なのだと先生は云った
地球が球だというのは××の陰謀です
本来ならば地直方体と呼ぶべきなのです
誰の耳にも届かない話をわたしは聞いていた
誰の目も見ず先生は諦めたように、底へ

(水温も水質もいい理想の地)

ガラスの地面はコンクリートより脆い
目を細めた空の果てのあれが境界線だろう
最近話題のタイキケンは光るのだと聞いた
伸ばした手が何本あれば届くのか
沈んでしまった先生の言葉を思い出した

(世界の果ては泳いで五分)

水面に浮かぶ鱗が語りはじめる
死ぬのはぜんまいが切れるようなもの
だから水面に自分を何度も叩きつけて
ぜんまいごと壊そうと足掻く行為は***
それ以上言わないでと鱗すべてを呑み込む

(あとはもう煮るなり焼くなりご自由に)

その質素なドレスを引き裂いた刹那に
上等な王族のフリルが誕生したのを見た
仕立て屋の頬をも赤く染めたという美しさ
きめ細やかで上質なレースがひるがえる
ああ、毒にも薬にもならない命だった

(死んだら浮かぶし生きれば沈む)

まばたきする一瞬すらも恐れた彼は
長い名前を求めてどこまでも泳ぎ続けた
アレクサンドロス・ゴコウ・アブラハム
目なんて失っていいと誰かに嗤ってほしくて
今夜もひとりで暗闇をさまよっている

(水面のきらめきこそが天国か)

徒歩でいけるところに興味はない
簡単に触れられるものに価値などなかった
天国入場券〈乗り物一回券付き〉より
プレミア価格の地獄パスポートがほしい
フリマアプリで高騰したそれがほしい

(夢で済ませるべきだったこと)

空を飛びたいなら生を燃やせ
一度さがって動き出すミニカーのような加速
境界を越えたそのときに見えたものはなんだ
そして感動が先か、事切れるのが先か
後悔が先か、歓びが先か

(水槽の中で見ていた夢でした)

つめたく硬い生命のおとぎ話
一度目のお別れはたましいと
二度目のお別れは彼女を彼女とする姿形と
灰になろうとする肉体を見送るときはじめて
大地とは生命なのだと悟った

(ゆれる木の葉も朝を呼ぶ鳥も)

おしえて
さよならはあなたの言葉でどう言うの?
どんな夢見て生を終えるの?

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