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ガソリンがない


出勤中、スクーターからえらい頼りない音が聞こえてきて、
「すんすんすんすん」と言いながら、どうも挙動がおかしい。
アクセルを捻っても出力がまばらというか、すごくばらつきのある進み方をする。まるで故障したUFOが不時着するときみたいなー。


信号待ちになってメーターを見てみたらガソリンが底をついていた。
びっくりした。「ガソリンがもう無くなりそう」は何度となく見てきたが、「ガソリンが底をついた」のは初めてみた。


あ、でも4年くらい前にダイハツ・ミライースで高速道路を走っていた時にふとメーターを見たら航続可能距離があと12kmしかなかったことがあって、その時は流石に全身に冷や汗をかいた。走るたびに数字は減っていき、9kmになり、6kmになり、そしてついに4kmになった時にサービスエリアのガソリンスタンドに着くことができた。その時は気が気ではなかった。思わずガソリンスタンドの店員さんに「あと、4kmだったんです..」と報告してしまった。あれは、もしたどり着けなかったらどうなっていたのだろう。そもそも、ガソリンの警告ランプはずっとついていたはずなのだけれど。


我が両親はクルマのガソリン残量が半分を切ったら給油する人である。そして、僕はそうではない。半分で毎回給油すると、損をした気持ちになる。

ガソリンタンク容量が40Lだとして、半分になるたびにガソリンを給油していたらガソリンタンク容量が20Lのクルマに乗っているようなものだ。それなら、できるだけ残量を減らして走り切った方がオトクのような気持ちになる。まぁ、実際には急に長距離を走ることになった時にまず給油しないといけなくなったりだとか、今回のようにガソリンが本当に底をついてしまったりとか、思わぬエラーが起こるので、ガソリンはこまめに給油すべきなのだけれど。


ガソリンが半分を切ったスクーターは吹っ飛ぶように軽い。
クルマと比べて元々はるかに軽い乗り物なので、ガソリンがなる・ないで乗り味が全然違う(じゃあガソリンないの気付けよ、というのはもっともな話です)ガソリンの給油を我慢すればするほど速い。速いとは言っても110ccのバイクの速さなんて大したものではないのだけれど、それでも楽しい。

ではガソリンを満タンにしたスクーターは鈍重で退屈なのかというと、これがそうでもない。久々にガソリンが充填されたスクーターはみちみちとした重みがあって、安定感がすごい。エンジンの音も日頃よりも野太い気がしてくる。「ぼぉんぼぉん」と音を鳴らして頼り甲斐がある。どこまでも走れますよ、と言う声が聞こえてくるようだ。



仕事を終えて、ガソリンがほぼ底をついているスクーターに祈るように鍵を差し込んでエンジンをかけた。ギリギリの思いでなんとかガソリンスタンドにたどり着く。「レギュラー満タンで、お願いします」と伝える。

スクーターは再びガソリンで満たされて、僕の身体を家まで運んで行った。

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