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読書感想文:人間標本


はぁぁぁぁイヤミスの覚醒とはまさにこのこと・・・
最高に面白かった~・・・・
イヤミスに対して面白いって感想、人として正しいのかわからんけど・・・笑

後味は最高に苦かったです!!!(褒め言葉)

湊かなえ先生は初めて好きになった小説家。
告白を読んだのは学生のときだったはず。
衝撃的だったんだよな~それから出る作品はほとんど読んだ。
(全部じゃないけど…イヤミス風味な作品はほぼ読んでるはず)

湊作品の共通して好きだなって感じるのは
事実は真実ではない、ということを感じるところ。

私は名探偵コナンが大好きだ。
小学生のころから「真実はいつも一つ!」って言われて育ってきた。


湊先生の作品を読むと、
事実は確かに一つで、揺るがなくそこにあるものだけど
誰の視点を通すかで見える色も景色も変わってしまうということ。

気持ちや思いを知ってそのフィルターを通して見た事実は
人によって変化しその人だけの真実になるということ。

その言葉の違いに気づかされたのが
沼に落ちたきっかけだったように思う。

今回の作品も昔ながらの湊先生の手法というか、
視点が変わり、語り手が変わることで見えてくる事実の色味が目まぐるしかった。
読み進めば進むほど、「あれは…こうだったのか…」と同じ事実が色を変える。真実に変わる。おもしろい。


結局人間の気持ちが一番ミステリーなんだよな。
日常における一番の謎って人間関係のいざこざだったりするし。

なんであの人はあんなこと言ったのか?
どうしてそんなことするのか?
行動の理由を知りたくなる。
理解できないままは気持ち悪いから知りたくなる。

そして現実問題、そんなこと考えたってわからないのである。
人は嘘をつける。
それが思いやりであっても利己的なものであっても表面上はわからない。
言語化された言葉もそれが本当に「本当」なのかは、
他人からは判断できない。
言葉をそのままの意味で受け取るのか、
信じるのか・信じないのかは自分の匙加減、判断でしかない。


同じ言葉でも、読み取った表情すらも
その時自分がどういう状況なのかで受け取り方が変わって
見え方・捉え方も一緒に変わる。
人は見たいものを見ようとするし、信じたいものを信じるから。


小説の中では一連の行動の理由を一番最後に正解として提示される。
掲示されないまでも正解を想定できるレベルの情報を与えてもらえる。


小説は、気持ちを語ってくれるから「本当」がわかる。
だから謎が解けてミステリーとして成立する。

先生が描くキャラクターは物語の序盤と終盤でまったくの別人に見える。
同じ人なのに。
人間はいろんな角度からいろんな人の視点を通すだけで見え方が変わるんだっていうのを文章でこれだけ表現できるところがすごいと思う。


湊先生の小説読んでると、
人の考えや気持ちなんて表面だけじゃわからないものなんだ。
想像したってそんなの小説じゃなきゃ正解は知りえないことなんだ。
って思える。

人の気持ちに敏感になりすぎるきらいがある自分には何度でも言い聞かせたい、現実世界で生きていく教訓にもなってる。




(このへんからほんのりネタバレかも)



今回は蝶博士の視点で見た時に、
真実を見抜けなかったことで起きる悲劇って感じではある。

けど、名探偵がこの世界にいたとしても
名探偵が真実を見抜くのは人が死んだあとのこと。
そうなるともう、なにがあっても榊親子にとって救いはなかったんだなと思うと絶望だなと思う。

しいて言えば、蝶博士自身が殺人を犯す前に、自身が名探偵になる必要があったわけだけど…それであっても至にとっての悲劇は起きてしまったあとでもうどうしようもないもの。

やはりさ、こういうミステリーやタイムトラベルにおける失敗の回避方法ってさ「対話」しかないよなって思うのよ。

これも人間関係における現実世界での教訓になりうるのよ。笑
自分の真実をしっかり相手に伝える、対話して情報を交換する。
これの大事さよ・・・

誤解を生むことのメリットなんかひとつもないよ。
物語においても、現実においても。
でもその誤解をさせる行動が誰かのためを思ったときにされたことであればそこに感動しうる物語が生まれるんだなあなどと思いました。


自分が理解のできない行動は
「誰かのため」であってほしい

そういうのをフィクションは摂取しやすい。
そこから感動を得やすいから。

今回でいうと、人間を標本にしたいという欲求(=理解のできないこと)をもった人間と実行した人間はイコールではなかった。
欲求を持った人間のために行動してしまった、理解しうる状況であった、といったような
(だからといって実際に人間標本つくっちゃうの普通ではないけどな!!これはフィクションだから!)

でも今って現実に起こる事件や、
あとは…芸能人の自殺報道とかいろいろだけど
誰でもとやかく言える環境がそろいすぎてる。

誰もが簡単に発言できてしまえるせいで、
勝手に作られた想像の物語が一人歩きする。
真実なんてわからないのに。
勝手に推測して語ったところでわかるはずもないのに。
本人にそれは正解だ!なんて言われるわけもないのに。
自分の中に抱えていられない人たちが好き勝手に発言して、
事実を印象づけていく、真実の色を変えていく。



現実の人間にとやかく物語をつけようとしてしまうこの世の中はよくないよなって思う。

この小説の中にも、ネットの反応が描かれてた。
最初はみんな好き勝手言ってるし、理解できないことに関して何か理由があるはずだと決めつけて考え出した自分の正解を発信する人がいた。

でも一番最後にわかった事実が報道されたあとのことを考えれば、
犯人への印象はガラリと変わって「異常者」から「かわいそうな人」に様変わりするんだろうと予想がつく。
私という、いち読者がそういった印象を持ったから。

それが、蝶博士にとって望んでいない結果だったとしてももう人の印象は止められないし、変えられない。



結果的に情状酌量の余地ありって判断されて死なずにすむことは客観的に見た時にハッピーエンドかもしれないけど…
主観で見た時と客観でみたときどちらがいいかなんてもう正解なんてないんだ。

相手がどう思うかなんて自分には変えられないことであると知ること、
それから
勝手に人の印象を広めて、事実を色付けしてしまうことの罪深さ。


そういうこともこの物語から感じた。
またまた人生における教訓やんこんなの!笑


物語の序盤、シンプルに虫が苦手なので
蝶の標本の描写が「き、気持ち悪い~~~~」って思いながら読み始めてたけど
相変わらず読み進めれば進めるほど変わる景色に圧倒されて、
あっという間に読んでしまった素晴らしい作品でした!!!!



現実だったら、とか
もし小説世界の中にいたら、と視点を色々ごちゃまぜにして書いちゃったけど
読んでくれた人がいたらありがとうございました。
















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