こんなにもありきたりなラブストーリー【短編小説】
朝が来た。朝が来たら目を覚ます。目を覚ましたら時計を見る。時計を見たら時間を確認する。こんなにもありきたりな普通の人生。時刻は朝の七時半。
このあと、最近できた彼女とデートに行く。映画館に行って、流行りの映画を見て、近くの喫茶店に寄ってお茶をしてから解散する。
こんなにもありきたりなデートプラン。それでも喜んでくれる彼女のことが大好きだ。
集合場所は駅の中央のどこにでもありそうなオブジェクトの前だ。どこにでもいそうな服装をした俺は集合時間の20分前に到着した。彼女はまだ到着していないようだ。少しその辺で時間を潰そう。
集合時間になると、彼女は駆け足で俺のもとにやってきた。
『‼√“=\¥-〜!!!@^\>9↤◑★!!』
「いやいや!全然待ってないよ!」
『✚♀▼⊕∂⊄∵∼$!?』
「本当に待ってないよ!じゃあ、映画館行こっか!」
どこにでもいるカップルの、どこにでもある会話から俺たちのデートはスタートした。
『9$9@↥∞√≡Ⅹ﹀‰№“6!!』
「ね!あの映画めっちゃ面白かったね!さすが名作って言われてるだけあるね〜!感動しちゃったよ!」
『@§∆※<“◑✚ww!★✧★✢∝≥!!』
「いやいや〜最後の方はもう涙止まらなかったよ〜」
どこにでもありそうな映画を見終わり、誰にでも言えそうな感想を彼女に言い放った俺は次の目的地へ向かおうとスマホを開いた。
すると…
【メール ゆり:今何してる?暇なら来て】
運悪く、この画面を彼女に覗かれてしまった。
『…∂∇∝∌∋≥!!!』
「いや、違うんだ…そういう…浮気とかではないんだよ…」
『≥∌'‰1%@97^€%―ゞ∥∆≧‰!!』
「違うんだって…!ゆりは俺の…」
『≧≤⊂⊄∠∆!!!』
「あ…!待ってくれ…違うんだ…」
彼女はどこかへ走って行ってしまった。どこにでもありそうな修羅場だ。
幸い、どこにでもはなさそうな位置情報共有アプリのおかげで彼女に追いつくことができた。
「待ってくれ…説明させてほしい。」
『∅⊗∀!!≤ωτπ∴!!!』
「ゆりは俺の妹なんだって!!」
『≫∀⊂±…?』
疑ってる彼女だったが、赤子の姿の俺とゆりのツーショットを見せたら信用してくれた。
『∃≥⊗…!‼√“=\¥-!!∅∀∬≠∑∋!!』
「いや、誤解させちゃってごめんね…僕が好きなのは君だけだから…いや、こんなどこにでもありそうなセリフ、ダサいかもね…」
『≯∧∬✞○●!♠✟★△✱!!』
「…嬉しいよ…抱きしめていい?」
『…✜▼!』
どこにでもありそうなハグをして、誰にでもありそうな温もりを彼女から感じた。
どこにでもいそうな俺とどこにでもいそうな彼女。どこにでもありそうなコミュニケーション。なんの違和感も無い。
本当にどこにでもありそうなラブストーリーだな。