シェア
鈴木のすり
2017年7月12日 20:25
カーンと気持ちのいい音が抜けた。小さな白い球が青い空へと弧を描く。それと同時にわっと歓声が沸き起こり、その瞬間を見た人々は口々に彼の名を呼んだ。すべてをなぎ倒すような黄色い高音には身体が持っていかれそうだった。揃いの白いユニフォームを着た少年たちはベンチから身を乗りださんと、腕を掲げたり帽子を振り回したり、悠々と塁を踏んでいく彼に何かしらの賞賛の送っている。皆そろって上向きの、いい形の尻をしてい
2017年7月7日 23:30
「いってきます」アパート特有の金属性で分厚い扉を押しながら、玄関に立つエプロン姿の母に声をかけ、家を出た。背後でガシャンという冷たい金属音を聞き、肩の通学鞄をなんとなしに掛けなおす。外に面した廊下の、手すり越しに見える下界の景色は、朝の透明な光に照らされやけに明るく澄んで見える。エレベーターを横目に手すりに手を添え階段を駆け下りた。とんとんとんと、コンクリート製の段差をリズミカルに降りて