#155 面白半分日記33 読書日記29 脳には妙なクセがあり、私にもいっぱいクセがある
『脳には妙な癖がある』
池谷裕二(東京大学・薬学部教授)/新潮文庫
氏の研究テーマは、記憶のメカニズムの解明「脳の可遡性の探求」
よくある非科学的な「トンデモ本」や「エセ科学」の類とは明らかに異なるホンモノの脳研究だ。
新年度の「教育心理」にも引用しようと思って購読した。
池谷氏は、これまで未解明だった脳内の神経細胞同士の結合部であるシナプス形成の仕組みを突き止め、その成果を米の科学誌『サイエンス』に発表した日本でも屈指の脳研究者だ。
そうか、心してかからねば・・・・と思ったが、本書は氏がこれまでに書いたエッセイやコラムを集めたものなので、素人にも非常にわかりやすい内容になっている。
目次を拾うとこんな感じだ。
■嫉み 妬みのメカニズム
著作権の関係があるので内容をすべて詳らかにはせず、私の実生活で符合する部分に触れながら考えてみたい。
私たちの心の内には、嫉妬心、劣等感、羨望心がいくつもある。
ただ、表に出すと格好悪いとか、恥ずかしいとか、「小さい人間だと思われたくない」といった心理が働くので隠すことが多い。
逆に、特定の人に対する妬みの裏返しとして悪口・陰口が語られることもある。
「悪事千里を走る」ことを分かったうえで意図的に拡散するのが最近のSNS。
どうにかならないものか・・・・
嫉みの心は社会的感情というカテゴリーに分類される。
この世に自分ひとりだけなら起こらない感情だけど、社会の中で人と関わりながら生きていると、自分と他人を比較して、さまざまな感情がわきおこってくる。
ネコを飼っているとわかるが、たまによそのネコが来客としてやってきた時、ちょっと可愛がると我が家の猫は嫉妬する。
動物にもそうした感情があるのかもしれない。
容姿に関する劣等感は、社会的・文化的な環境によって後天的に植え付けられるものとされている。
最近は
「ルッキズム(lookism:外見重視主義)」
がよく話題になるが、身体的特徴の善し悪しに基づく理想美の追求から差別までが日常にあふれている。
外的な価値基準が自尊心を傷つけたり、何とかしたくてダイエットし、挙げ句の果てに拒食症・過食症、うつになったり・・・・・
こうした心理の背景にあるのは「不安」だ。
脳研究によると、羨むべき人が不幸に陥ったときの脳の活動を測定すると脳内に快感が起こるという現象が見られるそうだ。
いや、それは口にしないだけで自覚している。
「ざまあみろ(様を見ろ)!」
「ほらみたことか!」
「やっぱりね、フフフフッ」・・・・と。
簡単にいえば、他人の不幸は蜜の味。
場合によっては、そこから怒りの感情に転移することもある。
筋の通らない妙な言い訳をしていた政治家が不倫を暴かれるという例のアレ。
幸せホルモンと呼ばれるセロトニンが増えたり減ったり、国民の脳はフル稼働だ。
勘弁してほしい。
私たちは、どんなに表面を取り繕って「かわいそう。気の毒だね」と同情するそぶりを見せても、他人の不幸を気持ちよく感じてしまう本心は、根源的な感情として脳に備わっているわけだ。
嫌な例だが、戦場で敵兵を狙撃する行為は、どう考えても人道的に許されざる行為なのだが、「聖戦」や「正義」の名の下に非人道的な行為によって兵士の脳内にはドーパミン(快感物質)やセロトニン(精神安定物質)、ノルアドレナリン(ストレス抑制物質)が分泌される。
それで罪悪感に苛まされ、戦後も苦しんでいる帰還兵もいる。
人間の脳はまことに妙であり不思議だ。
ベストセラーとなったリチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』では、「私たちはなぜ生き延びようと必死になり、なぜ恋をし、なぜ争うのか」という問いが投げかけられている。
利己的な遺伝子の働きは、利己を超えて利他的行動をも成り立たせているとも述べている。
つまり、人間の脳には極めて妙なクセがあるけれど、何もかも好き勝手に利己的に暴走するわけではなく、社会的・文化的な環境や他者との関係において、自己を制御・抑制したり修正したりしながら、利他のために動ける高度な動物だといえる。
チンパンジーと言われている私でもそう思う。