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#387 ゆるやかに時が流れる日もある
1,300字
「気忙しい」と「忙しい」は違う。
気忙しいときに限って、いろいろな案件が舞い込みバタバタする。単位を落としたとか、ゼミが決まらないとか、学生との面談がまだ続いており、あれやこれやとこなしているうちに、今日で面談450件目。
今日は面談というより、お礼の気持ちを伝えに来てくれた学生がいて、気が紛れた。時の流れは気まぐれである。
日々の面談では、コーチングなのかカウンセリングなのか、おしゃべりや愚痴なのかを見極めることも必要だし、それ以前にやっておくべきことがある。
守秘義務第一で学生情報を複数ルートから収集している。100人くらいの情報は覚えているが、近頃、記憶力が怪しくなってきている。
困りを抱える学生は「誰からも相手にされていない」とか「話を聞いてくれる人がいない」「どうせ自分なんて・・・」といった寂びしい気持ちのループにハマっていることが多い。
意外にも成績優秀な学生にもそういうケースはある。それは、教師に心配をかけたくないと考える「いい子」の中に潜在しており、可視化されにくいものだ。
日常の満たされない思いが高じて孤独感に苛まれ眠れない夜を過ごす。
『悪い奴ほどよく眠る』という映画があったが、私もよく眠るほうだ。
寂しさは哀しみや孤独感を生むが、場合によっては怒りに変貌することもある。
何かあるたびにそのタイミングで、適切に丁寧に聞いてくれる人がいれば、その都度、心の澱を取り除いてスッキリさせることができるのに、「ちゃんと聞いてもらえなかった」という経験を繰り返していると、「どうせ本気で聞いてくれる人なんていない」という考えが根付いてしまう。
そいう学生と出会ったときは、固くなった結びめをほどかなければならない。そして新たな結びめをつくる。
カウンセリングやコーチング以前に、「一緒にいる」ことの心地よさを感じてもらうことが先決だと考えている。
私のことを気持ち悪いオッサンだと思ったり、一方的に考えを押し付ける奴だと思ったらアウトだ。
1on1ミーティングは私なりに50通りの手を持っている。千手観音より950手足りないな‥‥
孤独に読書にのめり込み他者と没交渉な女子学生がいた。
「ねえ、ブックレビューごっこしない?」
学内の図書館で自分の好きな作品や作家を何冊か選りすぐって、お互いにそれのどこが面白いかを語り合うゲームをした。
私はどの作品や作家にするか20分間で決めたが、彼女は1時間以上も迷い悩んだ。「文学好き」を名乗っている手前、恥を晒したくないとか、先生を失望させたくないという思いがあったからだ(本人の後日談)。
図書館の外にあるホールで作品について語り合った。私も楽しんだのだが、彼女が最後に言った言葉が忘れられない。
「すごい楽しかったです。考えが変わりました。ゼミの仲間とこういうことをやったら面白いですよね」
直感的に動くことの多い私だ。何が功を奏するかはやってみなければ分からない。うまくいかない時は他の49手をアレンジしてやってみる。
アイスブレイク風にガムトーク(市販品)やトランプトーク(けーわん考案)をやったりもする。
あれから3年、彼女は友達にも恵まれ、就職も決まって、あとは卒業式を待つだけと報告しに来てくれた。
時間が緩やかに流れる午後を過ごした。
【ガムトーク】
サラバ沈黙、ヨウコソ話題