主人公の心理に???ってなる「金閣寺」
私の読解力が無いせいなのか、初めて読んだときは頭の中に不思議マークがたくさん出てきました。
なにがなんだかって感じでした。
それでも時間がたつにつれ、少しずつ面白みがわかっていき、いまでは人におすすめするほどのお気に入りの一冊となってしまいました。
三島由紀夫著作の小説「金閣寺」。
ざっくりあらすじを述べれば、一人の青年が、金閣寺に放火するまでの過程を描いた本です。
実際にあった金閣寺放火事件をモチーフにしており、放火魔の心理と三島の美的感覚が見事に融合しています。それはもう狂気的なほどに。
本の紹介はこれくらいでいいでしょう。
さっそくこの本の魅力を、私の独断と偏見で列挙していきたいと思います。
だいたい三つのポイントでまとめます。
1.主人公が内向的
2.魅力的なキャラクター
3.考えさせられるうえに美しい心理描写
それぞれお話ししますね。
主人公が内向的
まず一つ目、主人公が内向的という点。
これはそのまんまなんですが、主人公は外交的というより内向的です。運動するより本を読んでいるのが似合いそうなタイプ。
これには理由があって、主人公は吃りを持っています。最初の言葉がうまくでてこない症状のことです。
これのせいで学生の時にクラスメイトからかわれ(いじめといったほうが正しいか?)、性格が内側に向くようになったそうです。
内気な彼は、次第に外界に影響を及ぼすことをあきらめ、思索にふけるようなります。
そんな彼が最終的に金閣寺に火をつけるという暴挙ともいえる行動に出るんですから、面白いもんです。
なぜ放火をするに至ったか?それはぜひ、みなさんの目で確かめてください。
かくいう私も外交的ではないので、ところどころ共感しながら読めました。
魅力的なキャラクター
二つ目、魅力的なキャラクターについて。
主人公自身も十分魅力的な要素をもっているんですが、その周囲に出てくる人たちも、一癖二癖持っている味のある人ばかりです。
特に私のお気に入りは級友の柏木君です。
出会って開口一番に「君は童貞か?」と叩き込み、さらに「ちっとも美しい童貞ではない」と追い打ちをかけてきます。
それでも彼の進撃は止まらず、その調子で自分が童貞を卒業した日のこととそれまでの経緯を独白します。
この告白もまた強烈で、正直、人によってはドン引きされる方もいるかもしれません。
それに加え、彼の生き方も熾烈で、女性にたかるようなゲスです。
主人公もさすがに彼の生き方は辛そうに見えるようで、そのさまを痙攣しているようだと表現していました。
それでも柏木自身の思想は、主人公に対して影響を深くあたえています。
柏木君以外にも癖のある登場人物はたくさんいます。
恋を果たせぬと知り絶望して自殺する友人。父を裏切った母親。僧でありながら肉欲に耽る老子。
なんだかまともなのがいないように思えますが、もみくちゃにされながら読み進めるのもまた一興です。
考えさせられるうえに美しい心理描写
最後、考えさせられるうえに美しい心理描写ですね。
この小説とにかく描写が丁寧です。読んでて惚れ惚れするほどです。
例えばこれは最初の吃りの描写です。
吃りが、最初の音を発するために焦りにあせっているあいだ、彼は内界の濃密な黐から身を引き離そうとじたばたしている小鳥にも似ている。やっと身を引き離したときには、もう遅い。なるほど外界の現実は、私がじたばたしているあいだ、手を休めて待っていてくれるように思われる場合もある。しかし待っていてくれる現実はもう新鮮な現実ではない。私が手間をかけてやっと外界に達してみても、いつもそこには、瞬間に変色し、ずれてしまった、……そうしてそれだけが私にふさわしく思われる、鮮度の落ちた現実、半ば腐臭を放つ現実が、横たわっているばかりであった。
うへぇ…きれにまとめるもんですなぁと感嘆してました。
美しい描写だけを目的に読むのもありですが、金閣寺の魅力はそれだけではありません。ここに難解さが加わります。
主人公はラスト、金閣寺に火をつけ自身も一緒に燃やそうとするのですが、金閣に拒まれている感覚を持ち、自分だけは生き延びます。
そして最後、金閣寺を燃やした主人公はなんと考えたと思いますか?
「生きよう」と考えたそうです。
当初の私は、ここまで読んでなぜ主人公が生きようと考えるのか不思議でなりませんでした。
なぜなら、主人公は初期から金閣寺の美を狂信的なまでに崇拝していたためです。
崇拝対象が消滅し、それと一緒に死ねなかったことは、生きる希望よりも絶望に近いのではと考えていました。
いまではまた別の考えを持っているので、生きようと考えた理由が少しわかります。
とまあ、ひとつ例に挙げてみてもこんなに考えさせられます。
これは私の勝手な価値判断なのですが、良い小説は考えさせてくれると思っています。
なぜこの人物はこういう行動をとったのか。なぜこう考えたのか。なぜこんな結果になったのか。
答えをすべて出すのではなく、ある程度考えさせる余裕を持たせてある。そんな小説が私は好きです。
ですから、夏目漱石の「こころ」なんかも大好きです。ああいう人の心理を考えさせられる小説は私の大好物なのです。
おっと余談が過ぎましたね。まとめますと、美しく丁寧な心理描写でありながら、考えさせられるところもある。これが金閣寺の魅力です。
最後に
つらつらと金閣寺の魅力を書き連ねてきました。
私の説明力不足で魅力が十分に伝わり切れていない所もあります。
みなさんが、ほんの少しでも金閣寺に興味を持っていただけたら、私は泣いて喜びます。
この本は、読んだ後に爽快感があるわけではありません。
わかりやすい小説ともいえません。
しかし、ゆっくりと心に沈殿していくものがあります。
時間がたつほどこの本の面白みが輝いていきます。
ボディブローのようにじわじわと効いてきますので、ぜひとも一読をおすすめします。
以上でわたしの推薦図書を終わりたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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