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【クルド人出稼ぎ問題】日弁連警告書の問題点を国際法の観点から検証!

 11月24日、産経新聞が「<独自>川口クルド人「出稼ぎ」と断定 入管が20年前現地調査 日弁連問題視で「封印」」との記事を発表しました。本記事によれば、当時、法務省職員らが難民申請中のクルド人が提出した書面の真偽や経済状況の確認のために行った「現地調査」に対して、日弁連同調査への警告書を法務大臣宛に提出した結果、本調査結果表に出なくなったとのことです。

 本noteでは、以下の諸点について解説をしております。

  1. 国際法上の「難民」の定義

  2. 日弁連報告書の概要

  3. 日弁連が法務省職員による現地調査に問題があるとする法的根拠

  4. 本調査対象のクルド人は難民条約上の難民に該当するのか?

  5. 法務省職員による現地調査権は合法か?

 本noteがクルド人出稼ぎ問題を理解する上で何らかのヒントを与えるものとなれば、大変嬉しく思います。

 なお、表記の画像の出典は【東京新聞HP「クルド人の子の夢を奪わないで…入管難民法改正案の廃案求め集会 日本で暮らす子どもたちの訴えとは」】です。

1.まずは、国際法上の「難民」の定義を確認

入国管理局(当時)トルコ出張調査報告書に対する日弁連の法務大臣宛警告書
出典:日弁連HP「法務省入管の難民現地調査に関する人権救済申立事件(警告)

(1)1951年難民条約が規定する「難民」の定義

出典:UNHCR日本公式HP「難民条約とは?

 まず、日弁連の警告書でも引用されている「1951年難民の地位に関する条約第1条A項(以下、難民条約)」と「1966年難民の地位に関する議定書第1条2項(以下、難民議定書)」で規定されている難民の定義を確認していきます。

  • 難民条約(1951)における難民の定義:人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができない者またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者及びこれらの事件の結果として常居所を有していた国の外にいる無国籍者であって、当該常居所を有していた国に帰ることができない者またはそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを望まない者(出典:UNHCR日本公式HP「難民の地位に関する1951年の条約」)

 この条約が規定する「難民の定義」で重要な箇所は以下の3点です。

  1. 人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であること

  2. または政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができない者

  3. または、そのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者

  • 難民議定書(1967)における難民の定義:この議定書の適用上「難民」とは、3の規定の適用があることを条件として、条約第1条を同条A(2)の「1951年1月1日前に生じた事件の結果として、かつ」及び「これらの事件の結果として」という文言が除かれているものとみなした場合に同条の定義に該当するすべての者(出典:UNHCR日本公式HP「難民の地位に関する1967年の議定書」)

 難民条約(1951)では難民の対象範囲について、①地理的範囲の選択(締約国は、欧州で生じた事件に限定するか、他地域にも拡大するか選ぶ宣言を行う必要があった)、②時間的適用範囲の限定(1951年1月1日前に生じた事件に限定)という制限がありましたが、難民議定書(1967)は①・②の制限を取っ払ったものです。

 つまり、難民条約(1951)と難民議定書(1967)がセットになることにより、①原則として「地理的範囲の撤廃対象範囲が世界に拡大」と②「時間的適用範囲の撤廃将来の難民も対象」と対象範囲が拡大し、現在の支援すべき難民の範囲ほぼ確定しました

(2)日弁連警告書における「難民」の定義

難民のイメージ
出典:UNHCRフランス語版HP「トップページ

 それでは、日弁連警告書において「難民」がどのように定義されているかを見ていきます。以下をご覧ください。

  • 1951年難民の地位に関する条約(※ 難民条約)第1条A項及び1966年難民の地 位に関する議定書(※ 難民議定書)第1条2項は、難民とは迫害からの保護を求めている者であると定めている(※は筆者追記)。

 日弁連は難民条約と難民議定書を引用しつつも、「難民」とは「迫害からの保護を求めている者」としか記述していません。

 先ほどの難民条約の中には確かに「迫害」や「保護」という文言が使われていますが、「政治的意見を理由に「迫害」を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の「保護」を受けることができない者」という部分がごっそり削除されています。

 日弁連がこの部分を意図的に削除したのか、難民の定義を都合のいいように敢えて簡略化しようとしたのかは不明ですが、この表現では「何でもかんでも、難民になってしまうんじゃない?」という疑念が生じることは間違いないでしょう。

(3)経済難民(移民)や偽装難民は、難民条約(1951)の対象外

移民(経済難民)のイメージ

 それでは、出稼ぎやよりよい生活を求めて、他国に入国する、いわゆる「経済難民」、「移民」、「偽装難民」は、難民条約難民議定書が定義する「難民」に含まれるのでしょうか。結論から申し上げると、答えは「含まれない」です。

 まず、先ほども取り上げた難民条約の「難民の定義」をもう一度ご覧ください。

  1. 人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であること

  2. または、政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができない者

  3. または、そのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者

 この定義を見る限り、難民に「経済難民」、「移民」、「偽装難民」が含まれないことがよく分かります。

 また、国連難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所作成の「難民認定基準ハンドブック― 難民の地位の認定の基準及び手続に関する手引き ―(改訂版)(1979 年9月作成)」の「難民と区別される経済的移民」には、以下の記述があります。因みに、UNHCRには難民条約の適用を監督する権限与えられています(難民条約第35条)。

  • 62. 移民とは、(※ 難民条約・難民議定書の)定義に含まれている以外の理由別の国に居を構えるために自発的に出国する者である。このような者は、変化や冒険を求めて、あるいは家族の事情で若しくはその他の個人的な理由により移動する。純然たる経済的な考慮から移動するときは、経済的移民であって難民ではない

  • 63. しかしながら、経済的移民難民区別は、しばしば、申請者の出身国の経済的措置政治的措置区別必ずしも明瞭でないのと同様に、明らかでないこともある。人の生計に影響を及ぼすような経済的措置の背景に、特定の集団に向けた人種的、宗教的若しくは政治的な目的又は意図が存在することもある。経済的措置人口の特定部分の経済基盤破壊するような場合(例えば、特定の民族的又は宗教的集団から交易の権利をとりあげ、又は差別的若しくは過剰な課税をすること)には、被害者は、その事情に鑑み、当該国を去れば難民となるであろう。

  • 64. 上記と同一のことが一般的な経済措置(※即ち、差別なく全国民に適用されるような措置)にも妥当するかどうかは事案の事情によろう。一般的な経済措置反対であることのみをもって難民の地位主張する十分な理由あるとはいえない。他方、一見したところでは経済的な動機により出国したように思われるものが、実際には政治的要素も含んでおり、その者が重大な事態にさらされることとなるのは、経済的措置そのものに対する反対であるよりもむしろその個人の政治的意見であるようなこともある。(※は筆者追記)

 以上の3点からも明らかなように、UNHCRも「純然たる経済的な考慮から移動するときは、経済的移民であって難民ではない」と述べています。つまり、UNHCRも、難民条約で保護すべき難民に「経済移民(偽装難民)」は含まれないと解釈しています。

 その一方で、「経済的移民難民区別必ずしも明瞭でない」という見解も重要なポイントです。UNHCR(フランス語版)は両者の違いに関して、「国際法的には「移民」という言葉に統一的な見解ないが、「難民」と「移民」という言葉を混同することは、難民に対する世論の支持弱め、(※ 難民に本来与えられるべき法的保障である庇護制度そのものを不安定にする可能性がある。そのため、難民の移動の原因性質明確にすべき」との見解を示しています(※は筆者追記)。

 そのため、日本に限らず、世界中入国管理局は難民申請者が提出した書面や調書などから、同申請者が「本当に難民なのか、移民なのか」を正しく区別しなければなりません。

 以上の諸点を踏まえ、ここからは、日弁連警告書の概要と、日弁連が「法務省職員による現地調査が違法だとする法的根拠」を検証していきます。

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