トカゲを迎える
我が家では今、トカゲがブームだ。そもそもの発端はこの日記にある。
ざっくりまとめると、よく泊まるホテル(ちょっと違うが)の犬が可愛すぎて、我が家でも飼いたくなった、という話。
だけど妻と娘と話し合った結果、散歩や世話の手間を考えるとちょっと難しいんじゃないかという結論になった。そもそも我が家は手狭で引越しを考えているのに、現時点で犬まで増えるのは現実的ではない。残念だけど仕方ない。そうやって、一度は話が完結したはずだった。
しかし、抑圧された欲望はそのまま放置して昇華されることはないらしい。欲望は心のどこかで静かに育ち、思いもよらない形で現れてくる。
妻はある時から、トカゲが欲しいと言い出すようになった。
とかげ?
また変なことを言い出したと思って顔を見ると、妻はもう一度「トカゲかわいいよね」と言った。ブレンディ(ホテルで飼っている犬)を見るときと同じ目をしていた。
妻によると、トカゲは散歩しなくていいし世話も犬に比べたらやりやすい。我が家の環境でも飼えるのだという。確かに筋は通っている。話は飛躍しているけども。
それから妻は、ことあるごとに虫捕り網を持って公園を散歩するようになった。いや自分で捕まえるんかい。やっていることがまるきり小学生だ。
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あるとき、近くの公園を散歩していたら、レンガ壁の隙間に小さなカナヘビを見つけた。試しに捕まえてみたら、妻はこれまでにないほど大喜びしてくれた。
それから妻は、トカゲ用の飼育ケージと下に敷く床材、餌用のコオロギやミルワームをあっという間に買い揃えた。「買いにいくのがめんどくさい」と、いつも同じ服を着ている妻の行動がこの時ばかりは異次元に早かった。ついでに近くの爬虫類ショップのオヤジと仲良くなって、捕まえたカナヘビを自慢げに見せている。そんなに嬉しかったのか。
その爬虫類ショップは個人経営の小さな店で、時々お客がやってきて餌だけを買っていくようなのんびりとした店だ。店の中にはレオパなど他の爬虫類もわずかに並んでいるが、そういったトカゲが売れたのを見たことはない。
気になって、そのレオパを一度見せてもらったこともある。だけどカナヘビよりも体の大きなレオパは、飼育ケージもそれなりの大きさが必要で、手狭な我が家に置くのは難しいという結論になった。
そのうち飽きるだろうかと思って見ていたが、妻の熱は全然鎮まることがなかった。今度はバカンスに行った先で、宿の壁に張り付いていたヤモリを自分で捕まえ、飼い始めた。ほんとに小学生と行動が一緒だ。
ちなみに妻は餌のコオロギやミルワームが気持ち悪くて触れない。トカゲは平気だけど、虫はダメ。爬虫類好きにもいろいろあるんだなと思った。
そんなわけで餌やりはもっぱら娘の役目だが、本人はミルワームの手触りが気に入ったらしい。トカゲそっちのけでミルワームのお腹を撫でてばかりいる。
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しばらくはこのカナヘビとヤモリで定着していた我が家の爬虫類ライフだが、ある日思いもかけないニュースが飛び込んできた。
爬虫類ショップのオヤジが引退するというのだ。
聞けばもう40年も同じ場所で店を営んでいるのだとか。年末ごろまで店を続けて、その後は年金生活に入るらしい。
そうなると、急にあのショップのレオパが気になってしまう。店はあと1ヶ月で閉まる。この機会を逃すと、もうあの子には会えなくなるかもしれない。
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わたしたちは慌てて、リビングの整理を始めた。
まずはテレビを少しずらして、できた隙間にプリンタを移動する。それにともないぐちゃぐちゃに絡まったケーブルを整理して、溜まっていたほこりも取った。ついでにテレビの横で置物と化していた地球儀を、本来あるべき場所(娘の机の上だ)に戻す。サムネイル画像は、そうやってできた空間だ。
ふう。
これで飼育ケージをおく場所は確保できた。
作業が長引いたので、昼ごはんをどうしようか悩んでいると、妻が引き出しの奥からカップ焼きそばを見つけてきた。(最近はそういうものがイタリアのスーパーにもあるんです)それをみんなで食べて、今こうしてnoteを書いている。
我が家のトカゲ熱は、まだまだ続きそうだ。