セルフスキャン型のショッピングカートについて考える
先日、買い物で近くのイオンに行き、導入されてからだいぶ経っているレジゴーをはじめて使ってみた。が、これってみんな満足しているの?にわかに信じがたいなぁと思ったので、セルフスキャン型のカートについて調べてみた。
レジゴーの概要
レジゴーは、お客さんが自分のスマートフォン(or店舗提供の端末)から、商品のバーコードを読み取って、専用レジで会計を済ませるというもの。
レジゴーを使えば、買い物中に商品の読み取りが完了する。あとは支払いだけ → 買い物の時間が短縮される、という設計らしい。
たしかに、会計前の長蛇の列。
あの光景はウンザリする。
でも、なぜかずっとレジゴーを使ってこなかった。
理由は、そんなに時間が短縮されないだろうな、という勝手な思い込みだったが、今回使ってみて納得した。やっぱり思った通りだった。
買い物全体の流れ
この図は、レジゴーを使って買い物するときの流れ。
今回は、店舗側が提供しているスマホ端末を使いながら買い物をしてみた。
赤くハイライトしているところで、これはちょっとなと思うところがあったので1つ1つ見ていく。
1. カートを使うことが前提
レジゴーは、スマートフォンを使って商品のバーコードを読み取っていく。例えば、カートを使わずに左手に買い物かご、右手に読み取り用スマートフォンの場合、左手でカゴと商品を持ちながら、バーコードの読み取りを余儀なくされてしまう。実際やってみたが時間がかかりすぎる…
そもそも、カートを使って店内を移動する前提で設計されているため、買いたい商品が決まっていて、買い物かご片手にさっさと会計を済ませたいときには非効率だ。
2. 陳列棚前で立ち止まってしまう
例えば、通常の買い物だと、次のような工程が3秒ぐらいで終わる。
商品を手に取る
確認(特に気にならなければ、この工程はない)
買い物かごに放り込む
レジゴーの場合は、2手ぐらい工程が多くなる。
商品を手に取る
陳列棚前で立ち止まる
商品バーコードを探してスキャンする
買い物かごに放り込む
デバイスで点数を変更する(あれば)
商品自体のバーコード読み取りが不十分な場合、陳列棚前のPOPにあるバーコードを読み取るが、そこで人の列ができているところもあった。
3. スキャンの精度が甘すぎる
せめて、陳列棚前で止まってしまわないように、商品の読み取りが1秒ぐらいで終わればいいのだが、実際そんなことはなかった。
上のように、スキャンする枠内にバーコードを入れても、商品によっては袋が歪んでいたりする。そうすると、うまく読み取れないため、結局、立ち止まってスキャンのやり直しをする。
あと、カメラの精度がそんなに良くない?これは端末依存なのかもしれないが、体感1秒ぐらいのスムーズな読み取りはほとんどなかった。
4. 商品を連続でスキャンできない
僕は(趣味が料理なので)ヘビー買い物ユーザーの一人だが、買い物は複数の商品を一度に手に取って、かごに入れることがあると思う。
ひき肉を500グラム程度買いたいとする。
精肉コーナーで300グラム入り、200グラム入りのものを2つ手に取り、買い物かごに入れる。こんな具合に複数個を一度に手に取るわけだ。
レジゴーを使う場合、この「一度に」というのがえらく手間で時間がかかる。それは、一度商品の読み取りが完了すると、毎回、上の図のような商品一覧に戻ってしまうから。ここからカメラを起動するには、スキャンボタンを押す必要があるため、連続した読み取りが制限されてしまっている。
商品一覧で確認を促すことと引き換えに、こうした連続購入が制限される設計であり、個人的には非効率と感じた。
5. 種類の違うレジが複数できる
レジゴーが導入されたことでレジの種類が増えた。
・通常のレジ
・セルフレジ
・レジゴー専用のレジ
・サポートレジ
レジゴー専用レジよりも、セルフレジの方が空いていることもある。このため、商品スキャンとレジ待ち時間のトレードオフをどのように考えるか。少なくとも、これ以上レジの種類が増えることはまずいだろう。上記のレジの種類も、少なくする方向で検討しないといけないかな?と感じる。
6. 会計前でも立ち止まって確認→読み取り
全商品のスキャンが終わり、さっさと会計をして出ようと思ってもそうはいかない。会計はレジゴー専用で行うのだが、レジ前には販売員さんがいて、商品の目視チェックとレジへのデータ転送をどのようにやるか説明される。
これは端末側というよりオペレーションの問題だと思うが、結局、レジゴー専用レジに入場するとき、こうしたチェックがあるため列ができてしまう。
買い物を終えて思うこと
こんな購買体験をして、改めてUXってなんだろうか?ということをずっと考えている。店舗側がレジゴーで何を提供したいかもわかる。でも、実際に体験した1ユーザーとしては、こんなものかなという気持ちしかない。
気になったので、レジゴーのレビューを100件ぐらい漁ってみた。自分と同じような不満を挙げている人もいれば、買い物が楽しくなったという意見もあった。
たしかに子供の視点で考えたとき、この読み取り端末を独り占めできるなら、ただの買い物がアトラクションのようなものに生まれかわる。
でも、それは一人っ子の場合であって、幼児が複数だったら「誰が操作するか」で一悶着起きそうだな、と感じる。
試験導入の記事なども見てみて、いわゆるユーザーテストもやっているはずなのに、なんでこういうことが起きるのか。
設計者の期待通りにならないのがUX
おそらく、この上のUXモデルと同じようなことが起きているのがレジゴーなのではないか。そんなふうに思えてきた。
この図は、ハッセンツァールが提唱したUXモデルを図にしたもの。左側と右側に分かれていて、それぞれが設計者と利用者の範囲を示している(グレーとピンクの領域)。
レジゴーを例にあてはめてみる。
レジでの買い物をもっとスムーズに、効率的に行えるサービスとして、設計者はコンセプトにあった性質を考える。これは設計者が意図した性質だ。
こういうことを考えながら、プロトタイプを作り、テストを重ねる。
一方で、利用者について考える。
利用者は、こうした意図を汲み取ってプロダクトを利用するかというと、そうとは限らない。利用者は、利用時の体験全体を感覚的にとらえて、その良し悪し(満足度)を決定する。
例えば、今回の体験で起きた出来事をもう一度書いてみると、
この利用後の結果について、設計者が意図的に働きかけることはできない。設計者と利用者の間には、こうした溝が存在し続ける。
少なくとも、利用者が「もう一度レジゴーを使ってみるか?」となるには、期待していた利用満足を超える必要が出てくる。その利用満足は、利用者が体験を通して得た感覚であるから非常に厄介だ。
どういうものなら許容されるのか?
では、スマートカートの理想はどういうものなのか?
レジゴーの他にも、こうしたカートは存在する。
イトーヨーカドーの場合
カートに「画面とバーコードリーダー」がくっついているタイプ。
このタイプも使ったことがあるが、経験上、スキャンの精度はレジゴーよりも高いと感じた。
物理的な読込器を直接バーコード部にあてるため、読み取りはスムーズだ。ただし、POPのバーコードを読み取るときには、この機器をコードごと伸ばして読み取るなど、陳列棚前での立ち止まりは発生する。
ユニクロの場合
商品にRFIDが付帯されているタイプ。
通常の買い物どおりに、商品を買い物かごに放り込んでいく。お会計時に、専用のレジにてカゴの中身を非接触・自動読み取り。一度に複数の商品を読み取ることが可能だ。
ただし、RFIDを食料品に応用する場合、包装が水で濡れていたり、袋自体が電波を通しにくいものだと読み取りの精度が十分でない。もちろん、RFIDのコストの問題もある。
アマゾンの場合
巷で噂のアマゾンダッシュカート。
カートに設置されるカメラ(センサー)が、カート内の商品を自動判別。読み取りがうまくいけば音で通知される仕組み。買い物が終了したら、店舗の専用レーンを通過すると、Amazonアカウントに紐づけたクレジットカードで決済が完了する。
これなら専用レジでの滞留も起きなそうだ。
ただし、カートに複数のセンサーを内蔵しているため、商品を入れる容量が制限されていることと、センサーのバッテリーなどを考えるとカート自体が相当重そうだ。
スマートカートには、いまだに「これが完璧」というものが存在しない。
また、これらのカートを使った購買体験は、プロダクトだけで完結するものではなく、店舗の導線やオペレーションとも密接に関係してくる。
そのため、このような全体設計をする場合、得てして意図した通りの利用体験にはならないことを念頭に、当初、ユーザーが思い描いていた利用満足をいかに超えるか?がとても大切な気がする。