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集中力をキープできる 「ツァイガルニク効果」の対策と応用

「認知バイアス大全」マガジン

人間には、不合理な行動をしてしまう傾向があります。その原因のひとつが、認知バイアスです。認知バイアスとは、人間が進化の過程で獲得した生き抜くための工夫……のバグ部分です。そんな認知バイアスを集めたマガジンが「認知バイアス」大全です。


注文をすべて覚えている凄腕のウェイター。しかし……

心理学者ブリューマ・ツァイガルニク(Bluma Zeigarnik)博士(1901-1988)は、訪れたレストランで、ウェイターがまだ提供していない注文をよく覚えていることに感心しました。しかし、提供したあとになると注文について細かいことはうまく思い出せないことに気づきました。ツァイガルニク博士は、この現象の背後にあるプロセスを明らかにするために一連の実験を行い、1927年に『Psychologische Forschung』誌に論文を掲載しました。


ツァイガルニク効果

ツァイガルニク効果(Zeigarnik effect)とは

人は達成できなかった事柄や中断している事柄のほうを、達成できた事柄よりもよく覚えているという傾向

です。ソビエト連邦の心理学者ブリューマ・ツァイガルニク(Bluma Wulfovna Zeigarnik)が「目標が完了していない課題についての記憶は、完了した課題についての記憶に比べて想起されやすい」ことを実験で明らかにしました(※2)。

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完了するまでは覚えているが、完了すると忘れてしまう……

にたものにOvsiankina Effectというものも、こちらは

中断されたアクションほど再び着手したくなる傾向

を意味したもので、ツァイガルニク博士の同僚のマリア・オブシアンキナ博士の名前がついています。(名前の発音に自信はまったくありません。間違っていたらご指摘してください!)


なぜ起こるのか?

タスクが開始されるとわたしたちの意識は緊張状態になります(瞳孔が開く)。この緊張状態のあいだ、タスクと関連する記憶へのアクセスが活性化され容易になります。この緊張は、タスクが完了すると弛緩しますが、中断された場合は、この緊張は継続します。緊張が継続しているあいだ、タスク関連の記憶へのアクセスはスムーズな状態をキープされます。これがツァイガルニク効果が起こる構造です。


勉強を完了した学生は内容を忘れやすく、中断して他の作業をしている学生はよく覚えていた。

ツァイガルニク効果には、緊張や記憶を継続さえる効果があります。勉強を完了させずに他の活動をした学生は、勉強を完了させた生徒に比べて、その内容を良く思い出すことができました(※1)。道で500円を拾ったとします。その直後に幸福度を図ると上がります。なぜならそのとき「500円を拾った」ということだけを考えているから。「見たものがすべて」というわけです。

批判もある

1968年に行われた追試では、完了した過大と中断した過大のあいだで想起に有意差が見られなかったとか(※3)。

ドラマの続きが気になる!

「クリフハンガー」とも呼ばれる「え!?どうなるの?続き」という終わり方は、関心を継続さえる力があります。ツァイガルニク効果の応用です。


対策

ツァイガルニク効果のデメリットは、「作業を中断されると、それが気になったままになる」ということ。あともう少しで完了する作業を別の用事や時間の制限により中断すべきときに、やめられないのもツァイガルニク効果ではないが、関連した問題です。この「続きが気になって仕方がない状態」は、さきほどもちょっと触れましたが「クリフハンガー」というものです。クリフ(崖)にぶら下がる(ハンガー)、続きが気になって仕方がないからドラマを中断しないで次のエピソードもみてしまい、そ連鎖で朝までドラマを見続けてしまう。このとき、わたしたちに掛けられているトラップが「クリフハンガー」です。

行動アーキテクチャを使う

人間は何かの作業を中断するのがとても苦手です。つぎに紹介するポモドーロ・テクニックなどを使うと中断になれますが、それでも「あとちょっとやって終わらせたい!」という誘惑はとても強い。ゆえに行動アーキテクチャというものを使います。アーキテクチャは設計という意味で、行動を促す環境を設計することを意味しています。具体的には、

水をよく飲む

です。水を飲むと集中力が高まりますが、トイレにも頻繁に行きたくなります。トイレがチャンスで、そのときに作業をスイッチすると良いでしょう。

何も終わっていない!?という焦りの対処法

逆にツァイガルニク効果には、悪影響とも言えるものがあって、それは、

終わっていないものが気になってしょうがないというもの

日も落ちたころ、気がつけば、今日しようと思っていた仕事がほとんど終わっていなくてすごく落ち込むということがよくありませんか?(わたしはたぶん数えれば1,000を超える経験をしています。)これは、無意識にも残っていて、睡眠の質を低下することもあると言われています。気になって眠れなかったり。こんなときに良いのは、明確な計画を建てること。なんですけど、計画を立ててもまたできなったらどうしよう!?とネガティブな気持ちも湧いてやる気がでない、なんてこともあります。そんなときにいいのが、「アイビー・リー・メソッド」。今日できなかったことを淡々と6つのTo Doリストにしてしまい、明日起きたら、上から順番にやっていくだけ。明日もたぶん生きているはずなので、今日したかったけれどできなかったものを1番うえに書けば、明日にはしているはずです。嬉しい。

応用

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集中力を継続させるために、わざと中断する

こまめな休憩は意外なほど、生産性や集中力に良い効果があると考えられています。その論拠のひとつが、このツァイガルニク効果です。完了しないことで「続きをやりたい!」というやる気(動機)と注意力が継続するからです。有名なのがポモドーロ・テクニック。ポモドーロ・テクニックとは、25分仕事や勉強をして、5分間休憩するというサイクルを継続するもの。わたしも実践していますが、9時間くらいはまあまあ途切れないで継続したくなります。ポモドーロ・テクニックについてはこちらで詳しく書きました。


したくない仕事を「やりたくさせる」魔法

ツァイガルニク効果により、人間は、とりあえず手を付けてしまったら、終わらせたくなってしまいます。これをよく「作業興奮の原理」と呼ばれることがあるのですが、作業興奮の原理って、心理学にはないんです、この意味で。効果があると思うので、科学的に頼れる研究結果があるわけではないことを承知しながらなら、「作業興奮の原理だ!」と言っちゃっても、思っちゃっても良いと思います。原理は、基本法則という意味なので、やっぱちょっとミスリーディングがありそうな気もしますが、わかりやすいし、個人的には効果がすごくあると感じているので、べつに良いんじゃないかなーと今では考えています。

ツァイガルニク効果も1968年に追試験されてみると中断されたタスクとされなかったタスクに記憶の差はなかったともされています。(※1)それでもやっぱり効果がある気がしているので構わず利用しています。

「3分テク」

このツァイガルニク効果の利用にはコツがひとつあって、それは

ハードルをものすごく下げる

ということ。わたしは「3分テク」と名付けているのですが、ちょっと面倒なこと、したくないことなどに対して「3分だけでいいのでやる」というもの。食器洗いでもいいし、仕事でも良い、ジョギングでも良い。3分だけやります。短すぎる気がしますが、それで良いです。3分だけやってみると、あれがやってきます。

「えー、終わらせたいんですけど」パワー

タスクの一番むずかしいところは、「始めること」なんです。その理由は、結果がすぐに帰ってこないことってやりたくないからなんです。例えばダイエット。始めてもすぐには痩せません。なのでタスクの分割(デカルト)とかスモールゴールとかテクニックがいろいろあるんですが、一番手っ取り早いのが、「とりあえず始めてしまうこと」。そうするとタスクを完了したいという気持ちが湧いて、それがかなり心強い味方になってくれます。なのでハードルをちょっとそりゃないんじゃないかなーってくらいまで下げるのが良いんです。ジョギングだと着替えるのも面倒だったりしますが(笑)、そんなときは着替えて1分歩いたらOK!ってゴールを設けると良いです。再び着替えるのもいれても5分くらいで終わります。そこで終えてもいいですが、1分も歩いたら、「えー、もうちょっと歩きたい」という気持ちがだいたい生まれてきます。そして3分も歩いたら、ちょっとくらい走りたくなってきます(笑)。

関連書籍

アダム・オルター『僕らはそれに抵抗できない』

人間を依存症にするテクニックを紹介しています。これは使えるし、恐ろしい!



参照

※1:Zeigarnik effect from Wikipedia

※2:Das Behalten erledigter und unerledigter Handlungen

※3:Zeigarnik and von Restorff: The memory effects and the stories behind them

https://ja.wikipedia.org/wiki/ブリューマ・ゼイガルニク




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