好きな作家について

 本を読むのが好きだ。最近は拍車をかけるように本ばかり読んでいる。生活に支障が出るほどである。何のために教育を受けているのか、もはや分からないほどに本の世界にばかりいる始末なのだが、それは好きな作家が増えてきたことが起因しているような気がしてならない。本稿では、そんな私がここ一年ほどでのめり込んでしまった作家の方々を紹介する。

円城塔

いきなり円城塔の名前を出すのはどうかとも思ってしまうのだが、私は円城塔がかなり好きである。なぜ、どうかとも思うのかというと、円城塔の魅力は一言、「分からない」という点にあるからだ。なぜ「分からない」のが面白いのか説明せよと言われても上手く言語化出来ないのであるが、とにかく面白いのである。
例えば床下から大量のフロイトの死体が見つかる話だとか、空から降ってくる人をバットで打ち返す話だとか、脚注が本文を超えて話し出す話だとか、文章で打っていても何が何だか分からなくなってくるようなものばかりである。そうなのだが、それらがとても面白い。
一つだけ注意点があるとすれば、円城塔の話は分からないが故に、合わない人にはとことん合わないと考えている。実際、筆者が芥川賞を受賞した際も、選考委員の方々の評はかなり分かれたようである。その点、注意されたい。
以下、私の個人的なおすすめを挙げておく。

『Self-Reference ENGINE』

私の円城塔との出会いである。この本が面白かったがために、私は円城塔の世界にのめり込むことになる。とはいえ、私もいくつかの話は掴むことができず、インターネットの力を借りることになったのだが。

『オブ・ザ・ベースボール』

個人的には表題作が円城塔の作品で一番読みやすかった。これがデビュー作だというのだから、作者の底が知れない。ちなみにもう一つ入っている中編は、個人的に円城塔作品で最もわからなかった。

『後藤さんのこと』


私が最も好きな円城塔作品がこの『後藤さんのこと』である。短編集で、どの短編もとても好きなのだが、特に表題作と『墓標天球』は本当に面白い。

アゴタ・クリストフ

ひとまず『悪童日記』を読んでいただきたい。ともすれば貴方はアゴタ・クリストフのことが好きになるはずである。

本書は、戦争を生き抜く天才双子少年たちの日記という体裁を取った本である。この日記にはあるルールがある。それは、「日記の内容は真実でなければならない」ということだ。

 たとえば、「おばあちゃんは魔女に似ている」と書くことは禁じられている。しかし、「人びとはおばあちゃんを〈魔女〉と呼ぶ」と書くことは許されている。
「〈小さな町〉は美しい」と書くことは禁じられている。なぜなら、〈小さな町〉は、ぼくらの目に美しく映り、それでいてほかの誰かの目には醜く映るのかもしれないから。

アゴタ・クリストフ『悪童日記』(ハヤカワepi文庫)p42〜p43より引用

この点が本書の魅力を底上げしていると個人的には思っている。本書特有の文体や言い回しに惹き込まれることであろう。
本書を読み終えた時の衝撃は5年ほど経った今でも忘れることができない。これは私の人生の中でも比類なき傑作である、と思ったのだが……

本書は嬉しいことに三部作である。私はこの事実に長いこと気づかず、ある日たまたま入った古本屋で上記二冊の本が並べられているのを見てはじめて、三部作に出会うことができた。
先ほど「比類なき」などと偉そうな言葉を並べたのであるが、『ふたりの証拠』は個人的に『悪童日記』を超える面白さで合った。あらすじは『悪童日記』のネタバレになってしまう恐れがあるため、語ることはできないのであるが、(調べるのも遠慮していただきたい。きっと後悔することになる。)ぜひ読んでいただきたい傑作である。もちろん、『第三の嘘』も含めた三冊とも読む価値がある。

また、これは余談になるのだが、あの有名な『MOTHER3』に登場するリュカとクラウスは、悪童日記に登場する双子がモチーフになっているらしい。

もう一つだけ、アゴタ・クリストフについて語りたいことがある。それは、『どちらでもいい』という傑作掌編集だ。

私は図書館で何の気無しに本書を手に取り、そのまま一時間ほど図書館から出られなくなった。そのくらいのめり込んでしまったのである。個人的には上記三部作に比肩する傑作である。

野﨑まど

私は今日、野﨑まどの話をするために本稿を書いている。そのくらい私は野﨑まどにのめり込んでいる。
正直に言うと、私は野﨑まどの作品をそこまで読んでいるわけではない。それは、私が野﨑まどを知ったのがごく最近のことであるからだ。私はTwitter(現X)で本の情報を集めるのが好きだ。さまざまな読書系インフルエンサーが作るハッシュタグが付いた投稿を見ては、読みたい本を探している。2024年5月、とある方が作った「最恐ミステリ」のようなハッシュタグ(正確な名前は忘れてしまった)を見ていた際、やたらと同じ本が紹介されていることに気付く。それが、『【映】アムリタ』だ。

この本が、よく分からないほど面白かった。具体的に言うと、この本を電子書籍で日が変わったくらいの時間に購入し、ちょっと用を足すかとお手洗いに行き、そのままお手洗いの中で気付くと時刻が午前2時になっており、私はそこで本書を読み終わっていた。そのくらいのめり込んでしまったのである。
そして本作を読み終わったら、ぜひとも野﨑まどの書いた本を、必ず刊行順に読んでいただきたい。具体的に言うと『舞面真面とお面の女』『死なない生徒殺人事件』『小説家の作り方』『パーフェクトフレンド』『2』の順である。ここまでで構わない。逆に言うと、ここまでの6冊は読むことを強く推奨する。(厳密にいうと、もちろん刊行順の方が良いのだが、『パーフェクトフレンド』と『2』以外はどの順で読んでもさほど変わらないと個人的には感じる。)もちろん『【映】アムリタ』はそれ単体で面白いのだが、『2』までを連続して読むと、それを遥かに凌駕する読書体験を味わうことができるのである。

とはいえ、私は上記6冊しか読んでおらず、確かに好きな作家ではあるのだが、紹介するほどの知識もなければ熱意もあまりない。そう思っていた。2024921日までは。

2024年9月21日、『小説現代 2024年10月号』が発売する。本書の特集は『野﨑まど』。2024年11月20日発売予定の著者4年ぶりとなる完全新作、『小説』と書き下ろし短編『雪嵐の密室』が収録されていた。

この『小説』という名の小説を前にして、私は変わってしまったのである。
本小説のテーマは、「なぜ私たちは小説を読むのか」である。もちろん私は小説が好きで、その感情はおそらく、これを読んでいる皆様にも伝わっていることだろう。だが、小説を読む理由というのは考えたことがなく、考えてみたとしても漠然としたものしか思い浮かばない。
本書はそんな超難問に対する一つの答えである。天才、野﨑まどの弾き出すその答えを読んで、私は思わず泣いてしまった。それも号泣である。記憶している限り唯一の読書による涙が、幼稚園児の時に読んだ『フランダースの犬』である私にとって、その涙はとてつもない衝撃であった。
まだ本の形では刊行もされていない小説を紹介してしまい申し訳ないのだが、本書はそのくらい読む価値のある作品だと思っている。刊行されたら必ず購入するし、文庫化しても必ず購入すると心に決めている。作者に印税で恩返ししたいからだ。そのくらい、私はこの『小説』が好きだ。

と、思えば書き下ろしの『雪嵐の密室』である。特に何も言うことはできない(というか、言うことが特にない)のだが、この短編は読者を舐めているとしか思えない。あまりにもふざけている。もちろん褒め言葉である。詳しくは読んでいただくしかないのだが、私はこの二作に情緒を振り回されて、そして、野﨑まどという作家の小説を全て読むことに決めた。それほど私はこの作家のことが忘れられなくなってしまったのである。

ちなみに、この『雪嵐の密室』を読む方法は上記雑誌を購入する以外ない。雑誌を買うほどではないという方に似たテイストの小説を読んでいただくため、『野﨑まど劇場』をおすすめしたい。

本書は、何も考えずにただ笑いたい時に読むのが良い。それで、説明としては十分であると私は考えている。

最後に

いかがだっただろうか。今回紹介した方以外にも、私が好きな作家は山ほどいるし、私が知らない作家も世の中には山ほどいる。今回は紹介に足る知識があると個人的に判断した三名を紹介させていただいた次第である。
この記事があなたの読書を少しだけ広げるきっかけになれば幸いである。

(もし、あなたに好きな作家がいる場合、あるいは単に好きな本がある場合でも良いのだが、ぜひ私に教えていただきたい。本の話は、やはり楽しい。)

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