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手話通訳者全国統一試験「手話通訳が必要な人たちのために」2021過去問④解説〜情報・コミュニケーション〜

2021年度手話通訳者全国統一試験の過去問について、参考文献をもとに独自に解説をまとめたものです。


問4.手話通訳が必要な人たちのために

情報・コミュニケーションについて述べています。下記の(1)〜(4)の中から正しいものを1つ選びなさい。

(1) 情報量が少ない、画面に集中できない、会話のスピードに遅れるといったテレビ字幕のかつての問題点は、ICT技術によって解消されている。
(2) 「遠隔手話通訳サービス」とは、情報端末機器を窓口に置き、手話通訳が必要な人が来たときに窓口職員が手話で対応することをいう。
(3) 全日本ろうあ連盟が提案している情報・コミュニケーション法(仮称)はすべての障害者が手話を学ぶことによって情報アクセス・コミュニケーションの手段の拡大を保障する法案である。
(4) 手話通訳制度は、聴覚障害者に必要な制度ですが、手話がわからない聞こえる人たちにとっても必要な制度として機能している。

2021年度手話通訳者全国統一試験 問4

問題解説

(4)が正しい。ICT技術の普及に伴い広がる意思疎通支援サービスについて理解しておきたい。可能性とともに現状の課題についても整理しておきたい。あわせて手話通訳制度は、聴覚障害者に必要な制度であるとともに手話がわからない聞こえる人たちにとっても必要な制度として機能していることを認識する必要がある。

ICT 活用意思疎通支援サービス

近年では、ICT(情報通信技術)の急速な発展により情報へのアクセス手段が多様化している。光ファイバー・WiFi等の高速インターネットやスマートフォン・タブレット等の高機能端末の普及に伴い、聞こえない人々の意思疎通支援を様々な形で支援するサービスが登場している。
ろう者および情報アクセス・コミュニケーションに困難を抱える人たちに対して、情報通信技術を効果的に活用した情報アクセス・コミュニケーション保障の方法として「電話リレーサービス」と「遠隔手話サービス」が挙げられる。それぞれの役割を以下のように整理できる。

電話リレーサービス

聞こえない人は、その障害の特性上、音声によるやりとりを前提とする電話ネットワークへのアクセスが困難である。聞こえない人の通信手段としては、FAX・LINE・SKYPE など、文字・画像等の視覚的メディアによる通信端末・ソフトを利用することになる。しかし、このような通信端末・ ソフトは一般の電話ユーザーにとっては「まったく必要ないか、あれば便利」というのが一般的であり、聞こえない人が通信できる相手の数が一般電話ユーザーと比較して著しく制約されるのが一般的である。電話リレーサービスは、こうした制約をとりはらい、聞こえない人が音声電話ネットワークへ自由にアクセスできるように考え出されたサービスである。 すなわち、下図のように、一般の電話ユーザー(音声メディア)と聞こえない人(文字・画像等の視覚メディア)との間でメディア変換を行うことで、相互の通信を可能にするのが電話リレーサービスの基本的な概である。

オペレーターによる電話リレーサービス

電話リレーサービスについては、「電話」のバリアフリーの観点から、緊急通報を含めて、 ろう者も聞こえる人と同じように「24 時間 365 日、いつでもどこでも」安心してコミュニケーショ ンができる、国による公共の通信インフラとして整備していく必要がある。 公共の「通信サービス」としての電話リレーサービスの制度化を前提とした上で、「福祉サービス」 を担う行政や聴覚障害者情報提供施設の役割は、「電話リレーササービス」の仕組みを活用しながら、 各種相談等も含めたICT を活用して、聞こえない人が電話リレーサービスの利用による電話インフラへのアクセスが円滑にできるよう支援することにある
現在、行政が実施している電話リレーサービスは、地域のろう者の生活を守り支援していく趣旨で実施されており、公共サービスが始まったとしても、「福祉サービス」として共存できると考える。

遠隔手話サービス・遠隔文字サービス

手話通訳あるいは文字通訳のような情報保障手段は、生活の様々な場面(医療、教育、福祉など) で聞こえる人と聞こえない人の間の意思疎通を支援するために非常に有用かつ有効である。しかし、市町村の意思疎通支援事業の枠組みでこうした情報保障の手段を利用するにあたっては、様々な制約があり、「いつでもどこでも」利用できるとは限らない
特に、事故など緊急時にこれらの情報保障手段を利用したいと思っても即応できないことが多い。また、市町村の役所の窓口などにおいても手 話通訳の設置がないかあっても日時が限られるケースもある。遠隔手話サービス・遠隔文字サービスは、こうした制約の一部を解消し聞こえない人の利便性向上をはかるものである。

ICT活用の課題

電話リレーサービスの導入に際しては、聞こえない人本人が利用することで、自立や自己決定を支援することにつながることを説明し、本人の理解や自覚を促す機会が必要である。また、聞こえない人が電話の利用方法やマナーなどを正しく理解していくことも大切な課題であり、説明会や学習会の開催などが望まれる。聞こえる人は、オペレーターを通して聞こえない人と電話で話すという経験がほとんどないため、 「迷惑電話」ではないかと警戒されがちで、聞こえる人に対する電話リレーサービスの周知が必要である。また手話通訳等のオペレーターの養成や身分保障などの課題をどのように解決していくかの検討が必要である。

遠隔手話サービスは、聞こえない人が役所や施設などを訪れた際に手話通訳者が不在の場合、タブレットなどを通して手話通訳を行うサービスで、派遣にともなう移動手段、時間や交通機関の有無を気にしなくても良い利便性もあり、特に手話通訳者がいない地域では助かる面もあると思われる。しかし、この場合の課題として、タブレット(またはスマホ)の画面を通しての手話通訳だと、現場の状況や背景が見えないため、適切な通訳が出来ないことがあげられる。

手話通訳者が当該地域の手話通訳者ではなく、民間企業の手話通訳者である場合に、それぞれの地域のろう者の手話をきちんと読み取れるかという不安がある。手話通訳者は手話言語と音声言語の間の変換のみならず、地域のろう者の背景、特徴をつかみ、意味を正しく伝えるという支援も必要であり、そのような役割を画面の中のオペレーターが認識していないと通じない例も多くある。

特にろう高齢者は必要不可欠な情報を十分に獲得することができず、自己選択、自己決定のためには補足説明、相談、生活支援などの様々な支援を必要とすることも少なくない。手話通訳においては、「翻訳技術の提供」に加えて、ろう者の抱える課題を視野に入れ、「手話通訳に入る前」「手話通訳を必要とする場面」「手話通訳が終わる場面」でも生じた課題に対応した様々な支援を展開しているという現状がある。このように個々のろう者にあった情報・コミュニケーション保障を的確に行うことによってはじめて「聞こえない人の生活と権利を守る言語権の保障」がなされることになる。

「遠隔手話サービス」では、「翻訳技術の提供」以外の支援ができないため、行政サービスを受ける にあたっての自己選択と決定のために必要な情報保障を受けることができず、ろう者の利益を侵害する可能性があることに留意しながら、受付窓口等の使途を考慮することで活用出来る。「遠隔手話サービス」の使途範囲や運用のルールなどをマニュアル化し、地域間格差をなくし、広く普及していくことが切である。 どの場面でも言えるのは、手話通訳者が現場で対応するのが一番望ましいと考えるが、現実的に手話通訳者の派遣などが困難な場合があり、手話通訳者の設置・派遣と遠隔手話サービスの役割分担を整理して、導入事業者など関係者に広く理解していただく必要があり、より良い情報通信技術の活用 のあり方について周知していきたいと考える。

以上のことから、遠隔手話サービスの導入で全てが解決できるものではないことを踏まえて、手話通訳者がすぐに派遣できないような場面(災害や緊急時の避難所など)での一時的な対応や、窓口サービスの対応のように、補完的なサポートが適していると考える。

今後の ICT を活用した情報保障のあり方について

自治体の調査結果からICT を何らかの形で活用した事業を実施してきており、近年の ICTの進歩・普及が各地域における意思疎通支援事業にも影響を及ぼしていることがわかる。

障害者差別解消法の施行により聞こえない人への合理的配慮のニーズが増大してきていることを反映して、電話リレーサービス・遠隔手話サービス・遠隔文字サービス・音声認識などの技術を活用したサービスを提供する企業が数社出てきている。

技術革新が進み、ICT を活用した情報保障がますます広がることが予想される。ろう者の ICTの利用機会や活用能力の格差是正のために、使い方を教えることができる人材の確保や利用を支援する 体制が整っているか、ろう高齢者が利用しやすくなっているか等を整理していく必要がある。
音声認識についても、窓口での対応の際、周囲の騒音などのため誤認識が多いなどの指摘があり、 音声認識技術の運用にあたっては今後なお十分な検討が必要と考えられる。
今後は情報保障の人的支援とICT を活用した情報保障が共存していくことが、聞こえない人にとって選択肢が広がり、情報アクセス・コミュニケーションのバリアフリーが進むと考える。電話リレーサービス・遠隔手話サービス・遠隔文字サービス・音声認識などの技術を活用したサービスについて、それぞれの違いや意味を理解していない聞こえない人が多数いる。それぞれの役割 違いや利用方法などを正しく普及していくことが重要である。

厚生労働省 平成30年度 障害者総合福祉推進事業 ,ICTを活用した 視聴覚障害者の意思疎通支援の現状及び今後の活用等に関する研究事業報告書 ,一般財団法人 全日本ろうあ連盟



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