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わたしたちの星は。

車の後部座席に座って、
流れる外の景色を眺めていた。

歯医者・そば屋・駐車場・マンション
花屋・美容室・ドラッグストア

車が進むにつれて、だんだん緑が増えてゆく。

野菜畑・腰丈の草がはびこる空き地・
小さな神社の森・鬱蒼とした竹に覆われたお屋敷


敷地内に大きな蔵のある
瓦屋根の農家があるかと思えば、
通りを隔てた反対側には、
白とオレンジ色の南欧風住宅が
お行儀よく並んでいる。
道路脇の風景は
右と左でまったく違うものになっていた。
だがそれらがぎゅっとまとまって、
ひとつの街をかたち作っているのだった。

これらの場所のひとつひとつが、
誰かの持ちものなのだ。

私が通り過ぎてきた場所はすべて、
誰かの名前のある土地、なのだった。
地球の表面をさくさく切り分けて、
誰かが売り、誰かが自分の持ち分として買う。
そしてそこに住処を建てる。
場所の持ち主は
個人だったり会社だったり国だったりと
さまざまだけれど、
誰のものでもない土地なんて無いのだった。
この星の地面はどこもかしこも、
空き地でさえも、名前がつけられている。
売り買いされる前の大昔のこの星の土地は、
元々、誰のものだったのだろう?


蛇行するアスファルトの道路を
車はどんどん進んでゆく。
人の住むたくさんの家の並び。
人を呼ぶ明るい店の数々。
顔も知らない人の所有する土地を走り抜ける。
空き地の一本の青草の葉の裏にも、
土地の持ち主の名前が書かれているのだ。
決まり切ったことなのだけれど、
とても不思議な感覚が
私のなかで青草の波のように揺れている。
私は一体、どこへ行こうとしているのだろう。







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鈴懸ねいろ
文章を書いて生きていきたい。 ✳︎ 紙媒体の本を創りたい。という目標があります。