願いごと。
三月堂の坂道を妹は駆け上がる。
クマゼミの大合唱の中
私は息を切らして追う。
梅雨の街を抜けて、気の早い夏の奈良へ。
見知らぬ土地の匂いと風。古風な参道。
ゆっくり歩きたい私の思惑は外れ
急かされる旅となった。
東大寺三月堂には
妹が憧れる観音様がいる。
「会いたかったんだ」
千二百年の時を超えて
不空羂索観音と妹は対話する。
誰ひとり漏らさず救う覚悟を持った
力強い観音様を、
夢中で見上げる妹は
まるで小さな子供。
心が解れてゆく。
妹の中に今もいるのは、
屈託ない瞳で
にこにこしながら私の後ろをついて来た
あの小さな女の子だ。
強情で強引で負けず嫌いな妹。
ぶつかる壁もあるのだろう。
ここへ来たのは理由がある。
時には景色を味わいながら
人生歩こうよ。
観音様。
世の中をどうか
穏やかな幸せに導いて下さい。
そして
妹の心の中の小さな子を守って下さい。
三月堂の中を流れる寧静の風が
妹の髪を揺らした。
お土産タイム
今後は長めだと嬉しいな。
文章を書いて生きていきたい。 ✳︎ 紙媒体の本を創りたい。という目標があります。