スタンダード・サマー
休むことを知らないエアコンが
今日も微かな音をたてている。
窓辺の観葉植物たちにとっても
ここは快適なようで、
新しく柔らかい芽をどんどん伸ばしている。
目にも優しいものたちが
気持ちを和ませてくれている。
なんてありがたこと。
たった1枚の窓ガラスを隔てた向こうとこちらでは、環境はまったく違う。
この暑さのなか、
野良猫たちはどうしているのか気にかかる。
この暑さが
特別なものではなくなっていく予感がする。
当たり前のように
夏は40度近くまで気温があがることに、
いつかは慣れてゆくのだろうか。
横断歩道で信号待ちをしていた時のこと。
隣に作業着姿の男性が立っていた。
近くで外壁塗装の仕事を
している人のようだった。
直接肌を出すと危険なこともあるのだろう、
酷暑のなかでも長袖長ズボンだった。
その人のベストが
少し膨らんでいることに気づいた。
ちらりと見やると、
ベストの裾のあたりに小さなファンが付いていて、中に風を送る仕組みになっていたのだった。
初めて目にしたファン付きの服。
ブーンという小さな音が
その人から絶え間なく聞こえていた。
この小さなファンが
この人を守っているのだと思うと、
とても尊いものに見えてきた。
発明は不自由から出発する。
何かを乗り越えて生きてゆくために
考えられたものの恩恵を、
今日も皆、受け取っている。
そして私は、
先日の父の
扇風機付きキャップのことを思い出していた。
あれを笑ってはいけない。
そう心で頷いていた。
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お知らせです。
日本左利き協会さんのホームページにて
連載中のショートストーリー
『タカハシくんの左利きグローブ』【後編】が
公開となりました。
とても短いものですので、すぐに読み切れます。
すきま時間にでも
お読みいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
事実を元にした、ちょっと切ない物語です。
信じたくないものも
信じたいものも、
どちらも抱えているのが
人というものなのだろうなと思います。
厳しい暑さの夏ですが、
みなさまお体を大切にご安全に
お過ごしください。