言葉の鳥が羽ばたいてゆく。
とてもいいことを思いついて、
これは絶対に文章にしたい!
と思っていた。
書くものもスマホも手元になかったので、
頭の中で呪文のように
何度もその言葉を繰り返していた。
忘れないように、刻み込んで。
ところがその後、
職場の同僚と少し話をしたら、
大事な言葉は何処かへ
飛んでいってしまったのだった。
頭の中というケージの扉を開けて、
言葉は白い鳩のように大空へ。
羽ばたいていってしまった言葉の鳥を
追いかけようにも、
どの方向へ飛んでいったのかもわからない。
『なんだっけな』
という穴の空いた気持ちは落ち着かなくて、
なかなか塞がらないのだった。
アイデアや思いつきは、
すぐにメモしておかないと逃げていってしまう。
「忘れてしまうものは
その程度のものでしかないんだよ、
本当にいいものだったら
忘れてもまた思いつくものだよ」
と、いう人もいるけれど。
忘れたはずのアイデアを100%そのままに
思い出すことは、まず無いような気がする。
それに『似たもの』は再び思いつくことも
あるかもしれないけれど、
閃いた時の高揚感がまったく違っている。
言葉が繋げてくれたおかげで一気に広がる
そこからの展開も、
セットになっていなければならない。
こんなんじゃない。
という違和感を拭えなくて、
あああの時の思いつきとは二度と巡り逢えないんだな、と虚しく悟るのであった。
帰ってきてよ、言葉の鳥よ。
お前の好きなものを手のひらに乗せて、
待っているから。
この腕の中にお前をやさしく抱いて、
鼓動と体温を感じていたい。
白くて柔らかい羽根をそっと撫でたい。
そして濡れたように光る黒眼で
私を見つめてほしい。
私はお前の眼差しに応えて、
自動書記さながらに
お前の言葉をしたためるつもりだから。
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さて。
逃げた言葉は戻ってこないけれど、
書きためた言葉はここにあります。笑
日本左利き協会さんのホームページで
掲載していただいているショートストーリー
4月号が公開となりました。
【Papa is gone】前編
このお話は前編に続いて
5月に中編、6月に後編と
3回に分けて公開する予定です。
(すでに書き上がっております)
読んでいただけるとうれしいです。
植物や虫や鳥など、自然界が活発になる春。
不安と背中合わせの喜びが、
いつか夢の果実となりますように。