私に夏を届けてね、ミナペルホネン
初めて、ミナの服を買った。
Kanata、という。
一羽の鳥が先陣を切って大空を駆け、沢山の群れが彼に続く。
私は、その柄に一目惚れをした。
この服を手に入れることが出来なければ、私は必ず後悔するだろう。
それだけは確信できた。
ミナペルホネン。
母親の影響で、大学生の頃からその存在は知っている。
母から買い与えて貰った、ミニバッグや靴下、バッジなどがとても可愛いかった。
2019年冬、東京に面接を受けた帰りに、ミナの展覧会に立ち寄った。
その展覧会の中で、忘れられない部屋がある。
照明が絞られ、うっすらとした闇の中にガラスの墓がぽつんぽつんと存在していた。
近寄ってみると、そのガラスの墓には服が閉じ込められている。
その服は、ガラスの中で死んでいた。
それは、世にも美しい標本だった。
美しい服がガラスの中にそっと閉じ込められ、ガラスに文字が躍る。
「ミナの服は、私の人生に寄り添ってくれた。結婚や子供の出産、親の最期を私と一緒に歩んできた。」
なんと美しい言葉だろう。
服はただ、消費するためだけのものではない。
肌に絶えず触れ、思い出を共に共有する仲間なのだ。
こうして展覧会で飾られている時には、その服はひっそりと眠っているのかもしれない。
でも、持ち主に抱きしめられた時、その服は息を吹き返す。
そんな情景が想像できた。
色んな思い出をミナと共に見つめていく。
それからと言うもの、ミナへの憧れは、私を惹きつけてやまなかった。
そんなある日、ミナから手紙が届いた。
新作コレクションの案内である。
いつものように意匠を凝らしたダイレクトメールを見て、私はその服に一目惚れした。
それがkanataだった。
それは、辺り一面の鳥。
鳥たちが、飛んでいく。
先頭の鳥に、皆がついていく。
その時、私は思ったのだ。
「私、彼みたいになりたい」
彼は、何が起こるか分からない不安と絶えず戦って先陣を切っている。
怖いけれど、前を向いて突き進む。
先頭についていく群れではだめなのだ。
私はもうすぐ新たな場所で戦うことになる。
そんな時、この服を見て、勇気を貰いたい。
先陣を切れるような大人になりたい。
私は色んなことを想像した。
東南アジアで旅行する私。
私はきっと、このワンピースを纏って、暖かい風に目を細めるだろう。
ずっと行きたかった厳島神社。
風にこのワンピースをはためかせ、歩きたい。
そんな自分を想像すると、だめだった。
ミナの服はとても高価である。
だが、シチュエーションや着たい場所まで想像させてくれる服はそうそうない。
そして、私は既にこの服のコンセプトに一目惚れしているのだ。
買わない理由はないだろう。
この服を着て、夏を迎えるのが楽しみでならない。
暑い夏が楽しみになる、素敵な服を買うことができた。
ミナが私に、夏を届けてくれる。
参考文献
https://www.mina-perhonen.jp/textile/0070/
https://www.mina-perhonen.jp/online_store/YS3734
https://casabrutus.com/design/124195