人生に「農」のある暮らしを。農業で人と人をつなぐ【農園訪問レポート:タカツカ農園さん】
こんにちは!The SUZUTIMES編集部の これえだ です。
今回の記事も生産者さん紹介・・・ですが、前回のインタビュー形式とは少し異なり、店舗のスタッフが生産者さんの元を訪ね、お話を伺った際のレポートをお届けします!
記事の執筆は新潟市にある店舗FARM TABLE SUZUのスタッフ、よもぎです。
伺ったのは新潟市秋葉区にある『タカツカ農園』さん。
実際に畑や生産の現場を見ながらだからこそ感じられた、ちょっと特別な感情が伝わると嬉しいです。
私自身がタカツカ農園さんに興味を持ったきっかけは、髙塚さんご家族がFARM TABLE SUZUにお食事を食べに来てくださったことです。
普段お店で野菜や米を見たり、スーパーで食材を目にしたりする機会は多くありましたが、その食材を実際に作っている農家の方に会う機会はとても少ないことに気付きました。
お店で提供している食材に込められた思いを知るために、実際に作物が育つ畑を見て、農家さんについてもっと知りたいと思いました!
2024年2月28日~29日に開催された「お試し移住ツアー in新潟市秋葉区」というイベント内で、農園を営む髙塚 俊郎さんが農業についてお話しされる機会があり、将さん(SUZU GROUPオーナーシェフ 鈴木 将)率いる私たちSUZU GROUPのスタッフも伺うことになりました。
その様子を交えながら、今回は特に印象的だった 2 つのエピソードについて綴っていきます!
その前に、まずはタカツカ農園さんについてご紹介します。
タカツカ農園について
「タカツカ農園」は、信濃川・阿賀野川 2 つの大河に包まれた新潟市秋葉区にあります。秋葉区は新潟市の中心部から車で 20 分足らずですが、緑豊かで穏やかな地域です。
農地は一カ所だけでなく秋葉区の各地に点在していて、その土地は合わせて約 19haと広大です。
19haとはなんと東京ドーム約4個分の面積です!さらに分かりやすくすると、プロのサッカーコート約26個分・・・!学校にある一般的な25mプール(6コース)に換算すると、600個分以上の広さがあります!驚きですね。
実際に野菜や柿の畑、田んぼを見学させていただきましたが、視界いっぱいに広がる田んぼが特に印象的でした。
2月に伺ったため耕す前の田んぼでしたが、水が張った田植えの時期や、一面に稲穂が実った秋の様子を想像するだけでワクワクしました!
タカツカ農園は、お米(コシヒカリ、新之介、ミルキークイーン、たかね錦、こがねもち等)、柿、豆類、野菜などの栽培から、餅、米粉、干し柿、ジャムといった加工食品までを手がける農園です。
ちなみに、現在のFARM TABLE SUZUではタカツカ農園のコシヒカリをお楽しみいただけます。もっちりと弾力のある食感と、お米特有の甘みが際立った、私自身大好きなお米です!
広大な土地で作物を育てながら加工品まで作る農園ですが、現在は髙塚さんご夫婦と娘さんの家族 3 人で営まれています。
今回お話を伺った髙塚 俊郎さんもご自身のお父様から農業を継いでいらっしゃるので、脈々と受け継がれた土地を守り、三世代をつなぐ役割をされている方でもあります。
エピソード①農業にこだわらない!?
「農業にこだわらないことにこだわっている」という髙塚さんの言葉に、私の頭は「?」でいっぱいになりました。
広い土地で数多くの農作物を育て、販売だけでなく加工までしているのに、こだわっていないわけがない!と思ったからです。
私を「?」にさせたもうひとつの髙塚さんの言葉が、「農業をしていて一番楽しいことは、自分の能力を使って誰かの思いが形になること」です。
・・・農業にそんな力があるの?と、またも私の頭は「?」で埋め尽くされます!
そんな私に、「柿」を通じて人の思いを形にした経験を話してくださいました。
このお話を通じて、「こだわらない」に詰まった髙塚さんの農業への思いが見えてきました。
タカツカ農園の名物の一つ、「八珍柿」!
びっしりと「ごま」の入った甘い果肉とパリッとした食感が魅力です。この八珍柿を使った「干し柿」はねっとりした食感で、甘みが凝縮されていています。
八珍柿とは新潟県で生産される渋柿のブランド名です。
原木が秋葉区古田にあり、高さ約16メートル、樹齢は300年以上といわれています!「八珍柿」という名前は、実に種がない珍しさが由来です。
親鸞が起こした奇跡の伝承として「越後七不思議」が知られていますが、越後の八つ目の不思議として「八珍」の名が付けられました。
髙塚さんは、そんな柿を通して、毎年新津第二小学校の 3 年生に特別授業をされています。
児童は春から冬にかけて柿の栽培や収穫を体験し、まとめ授業では「どうしたら柿を好きになってくれる人が増えるか」という難しいテーマに取り組みます。
ある児童が考えてくれたのは、「歌を作ってYouTubeにのせる!」というアイデアでした。髙塚さんは実際に「はっちん柿の歌」を作り、歌に乗せて小学生と踊っている動画をYouTubeに載せました!
髙塚さんの柿の授業を通して生まれた児童の思いが、歌として形になったのです。
このお話を聞き、私は、「農業にこだわらない」というのは、「作物を生産することだけに縛られない」ということではないかと考えました。
ここから少し自分語りになりますが・・・
私は大学生になって自炊を始めてから、食材はスーパーで買うことが当たり前になっていました。
しかし、髙塚さんから柿の授業のお話を聞いた時、私が小学生の時に体験した田植え・稲刈り、収穫した米を飯ごうで炊いて食べる『芋煮会』を思い出しました。
柔らかい土に裸足を入れる気持ちよさや、鎌で稲を刈った感覚を今でも覚えています。
児童全員で作った米を自分たちで炊いて食べることで、普段は交流の少ない人とも自然とコミュニケーションが取れました。
今思い返すと、小学生の時に自然の中で作物を育てて食べる喜びや、農業が人と人をつないだ経験をしていました。とても貴重で、楽しくて、幸せな体験でした。
農業から広がる人との繋がりや、実際に土に触って自然と触れ合うことがどんなに心と体を癒やすか、私はすっかり忘れていました。
髙塚さんは、農業が持っているこの魅力を1人でも多くの人に伝えたいのではないかと考えました。
そして、新津第二小学校の児童は、柿の授業で、私が小学生の頃に感じた豊かさと似たものを経験したのではないかと思います。
また、子どもたちの発想力と高塚さんの奮闘によって動画が世界に発信されたことは、農業を通じて世界中の人と繋がったといえるでしょう!
タカツカ農園の「農業」は、単に野菜や米を育てているだけだはありません。農業を通して人と自然をつなぎ、さらに人と人の新しい交流を作っています。
これは、農業が人生を豊かにするという髙塚さんご自身が感じた可能性を、より多くの人に伝えるために、積極的に「作物を育てる」以外の活動をしていると感じました。
エピソード②これからの農業のニーズって?
髙塚さんは「みんなが家庭菜園を始めて、農家がいなくなる社会が一番理想的」と話されていました 。
大量生産ではない農業の非効率を楽しみながら、人々が自然と触れ合う機会が増えることを望んでいるからです。
多くの人が自然と離れて働く中、髙塚さん自身もサラリーマンを経験し、土に触れることで心が豊かになることを実感したそうです。
髙塚さんご自身が農業に行き着くまでの道のりを話してくださいました。
10代の頃は、東京に出たい気持ちと、父から「農学部しか金は出さない」と言われたことで東京農業大学に進学します。
卒業後も新潟には戻らず、東京で損害保険の仕事を10年間続けました。
仕事には満足していましたが、偶然交通事故を目撃したとき、心配より先に「自損でいけるな」と頭に浮かんだ自分に驚きます。
もし自分の身近な人が事故に遭っても、仕事であれば割り切れるかもしれないと思い、「病んでるな…」と感じたそうです。
ちょうど子育ての時期とも重なり、故郷・新潟の環境に魅力を感じて新潟へのUターンを決めたそうです。
髙塚さんは、作物が本来育つべき季節に合わせ、自然に近い露地栽培で作物を育てています。
ハウスを使わないことは、天候や虫の影響を受けるため効率がよいわけではありませんが、季節感を感じながら農作をすることを重視しています。
サラリーマン時代を経たことで、土に触って心を豊かにし、自然に触れ合うことの大切さを身をもって体感したと話されていました。
そんな、「人生に『農』のある暮らしを」という想いから、現在は豊かな暮らしを追求する農業体験農園「草と水」を運営しています。
四季の移ろいを肌で感じ、作物の成長過程を見ながら自然と向き合うことのできる空間を作られています。
他にも、七夕祭りや干し柿作りなどを通して、野菜作り以外の「農」を幅広く体験できます。
こうした事業は儲けることを目的としておらず、人々に豊かさを提供するための活動として行なっているそうです。
一つ目の話題でご紹介した八珍柿の授業のような体験は、誰しもができるわけではありません。
その機会を少しでも平等にするために、農業体験の活動を続けています。
髙塚さんは今後の農業のニーズについて、「心の豊かさを求めるもの」になっていくと考えているそうです。
自然に触れ、農業と関わることで気分が上がったり、ワクワクしたりすることを求める人が増えていくという考えです。
その需要に対して柿の授業や農業体験など、ご自身が供給できる価値を探し、歩み続けているのだと感じました。
最後に
今回お話を聞いて、私自身忘れかけていた自然とのつながりや作物を育てることの楽しさを思い出しました。
(余談ですが、最近は観葉植物を育てることにはまっています。家の中に緑があるとそれだけで心が落ち着きます。次は家庭菜園に挑戦したいと意気込んでいるところです!)
農業を通じて自然や文化を身近に感じ、全ての人の心が豊かになって欲しいという髙塚さんの強い想いを受け取りました。
読んでいただいた方が少しでも多く自然と触れ合い、心安らぐ日が続くと嬉しいです!
蓬田 理菜