Oublie ―ウーブリーフランス菓子の起源を求めて①
はじめに。ーフランス菓子とわたし。
フランス菓子といえば、マカロンパリジャンやエクレア、パリの華やかなパティスリーをイメージすることが多いのではないでしょうか。
そのイメージは勿論です。しかし、わたしが興味を引いたお菓子は、マドレーヌやフラン、シンプルな地方ごとのアーモンド菓子といった、素朴なお菓子たちです。
なぜ、素朴な地方菓子を追うのか
例えばの話ですが、皆さんは和菓子を食べる時、おばあちゃんの作るお団子や大学イモと、老舗の高級和菓子屋できれいな練り切りを買って食べる時、全く違う印象を持つと思います。
後者のお菓子の場合は自分へのご褒美であったり、お土産として買う。つまり、背伸びをして買うものであります。対して前者は、飾らずにほっと一息をつく落ち着く存在であると思うのです。
日常に寄り添うお菓子。それがわたしの追及するお菓子なのです。
その中で、ある本に出会いました。それは、大森由紀子先生の『フランス菓子図鑑』。それまで私はケーキ=華やかなイメージ。それゆえ、毎日食べる物ではない...
しかし、素朴でありながらもプライドや魅力が詰め込まれた、フランスの地方ごとの日常に根付いたお菓子があると知った時、『これだ!』と、思ったのです。そのときわたしは、「本当のフランス菓子」を知った気がしたのです。
お菓子に限ったことではないと思いますが、わたしたちは、「フランス」に対し、ステレオタイプを抱きがちです。実際に知ること。見ることをしないと、そのものの本質はわかりません。
料理もお菓子も、その土地の文化を体現するひとつです。ましてや大好きなお菓子。わたしは、お菓子を通して、フランスという国を知りたいと思ったのです。
ウーブリとの出会い
ウーブリとはー わかりやすく一言でいえば、ワッフルの元となったお菓子です。
岩波ジュニア新書で、『お菓子でたどるフランス史』という本を池上俊一さんが出版されています。卒論テーマに悩んでいた大学3年の春、何気なく読んだその本にウーブリの説明が書かれていたのです。
何気なく食べているワッフルが、”お菓子の起源”このフレーズがわたしのハートを掴み、ロマンを求めての研究が始まったのです。
神聖なるパンから庶民菓子へ
ウーブリはミサの際に用いられる聖体パンから生まれたものです。13世紀ごろから祝祭日やミサの際に教会の外で売られるようになりました。それまで聖体パンな儀式に用いる神聖なものであったのに対し、ウーブリは初めて世俗的な意味、つまり、「おやつ」として庶民に売られたのです。
初期のウーブリのレシピを見てましょう。
dans la première, la farine mêlée d’oeufs est délayée avec du vin ; dans la second, une tranche de fromage est mise entre les deux couches de pâte liquide ; dans la troisième le fromage râpé est incrorporé dans la pâte ; et dans la dernière, la fleur de farine est détrempée à l’eau mêlée de vin11.
一番目、卵と混ぜた小麦粉をワインで溶く;二番目、液体状生地の間に2つの薄切りのチーズが置かれる。;三番目、生地の中にすりおろしたチーズを組 み入れる。;最後、極上の小麦粉をワインで混ぜた水にひたす。
『Le Ménagier de Paris』という書籍に記されているレシピです。おやつというと甘いものという印象が浮かぶかと思いますが、ウーブリが出始めた13世紀ごろはまだ大航海時代前の砂糖が貴重な時代。想像ですが、薄焼きせんべいのようなイメージでしょうか。
13世紀頃に生まれたとされるウーブリは、庶民の間で親しまれ、第一次世界大戦前まで、よく食べられていたといいます。
庶民とウーブリの菓子文化については次回詳しく記載します。
ウーブリの名の由来
ウー ブリ(oblie)の起源については、諸説あり、古代ギリシア時代から伝わるお菓子、oblias が 元ともいわれています。その語源に関しては、ギリシア時代の補助通貨・1 オボロスからきて いるとされ、このことからわかるように、ウーブリは非常に安い値段で買えるお菓子でありました。別の説では、ローマ時代の聖体拝領パンである oblata が元ともいわれています。
名前の由来を辿れば古代ギリシア、ローマ時代まで遡れるお菓子。このようなお菓子が、今現在でもワッフルとして食べられているという訳です。
普段何も考えずに食べるお菓子であっても、調べれば調べるだけ奥が深いのです。
パティシエの起源がウーブリ職人である...というお話も徐々にしていきたいと思います。
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