楽屋で、幕の内。| 大団円。末永く幸せに(猫飼い戦記 植物との共生編 8)Nov.6
(前回までのあらすじ 詳しくは戦記7)
植物のある生活に憧れながら、育て方が下手な私。に、加えて観葉植物をことごとく荒らす猫のいる我が家。観葉植物を守るため猫との戦いに明け暮れる。植物との共生を半ば諦めていたとき、息子からの誕生日プレゼントがポトスだった。どうやってポトスを守るのか。
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そのとき、夫が動いた。
「これだよ、これしかない」
夫が抱えていたのは、鳥籠。
「鳥籠にポトスを入れるんだよ。そうすれば猫に手は出せないはず」
私は感動した。前回(戦記4)はミニ温室が植物に合わない環境だったせいで枯らしてしまった。近い線まできていたのだ。これなら風通しがよくて、猫の頭も前足も入らないはず。
鳥籠、長年の人類の苦労と知恵の集大成。ただ、今回の用途はなにか目的が違う気がするが、まあいい。
早速組み立てる。エサ箱、水入れ、渡り木は容赦なくすべて撤去。いよいよポトスを入れる。
が、自分に必要なことなら、一度見ただけで完璧な記憶力を発揮する猫に、入れ方を見せるわけにはいかない。
猫を別室に隔離だ。鳥籠の籠の部分と、下の受け皿部分が分離できるようになっていた。受け皿にポトスをそっと置き、籠をかぶせてロックする。完璧じゃないか、これ。それに何だかおしゃれだ。
ほら、フランスでよく見かける感じ(渡仏の経験なし)。
猫を別室から出し、いよいよご対面だ。初めて見る鳥籠に興味津々だ。うろうろと、その回遊する様子がサメかライオンだというに。
植物の身になると恐ろしい。籠さん、守って。
猫、ポトスに気付く。手や口を近づけようとするが籠に阻まれて手出しができない。
「これって、もしかして」
「もしかして、もしかして」
「戦いの終決!?」
あれだけ待ち望んだ終戦なのか。疑いたくなるが、さすがに猫がこじ開けるのは無理だろう。
放心した。あっけない感じがする。まだ先がありそうな気がする。
昔、ある高校球児が地区大会、県大会、そして甲子園に勝ち進み勝利したとき「僕らは遠くまで来た」と万感の思いを一言で語った。その気持ちが分かる気がする。ずいぶん遠くまで来た。翌日もまだ試合がある気がする。明日もまた猫と戦っている気がする。
こうして植物との共生をかけた、長い長い戦いは終わった。
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その後ポトスは光と風を享受して、自由にのびのびと育った。窓辺の太陽の温かい日差しの下、猫とポトスが仲良く日向ぼっこというあり得ない構図も見るようになった。
末永く幸せに。いつまでも幸せに。
油断してはいけない。安心してはいけない。ポトス、君の自由は鳥籠の中だけなのだ。鳥籠の外には怪物が潜んでいる。ちょっとでもそこから出ようなんて思っちゃあいけないよ。
ほら、いわんこっちゃない。かじられたね。
猫に、かじられたね。
別の戦いの香りがする。戦士はまた立ち上がった。(終)
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